読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ビヨン・ヘヨン「ホール」

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 本書は、いたって普通の小説だった。以前読んだ「アオイガーデン」はなんとも変な作品ばかりで、韓国文学の奥行きを実感したのだが、これはオーソドックスな展開で、肩透かしでもあった。おそらく、ぼくは素直ゆえこんな感じで読了してしまったのだろう。

 本書のガイドラインは、どん詰まりの恐怖だ。自分の力ではどうしようもない状況に陥って、それが更に過酷になってゆく。追いつめられて、しかし逃げ道はないという恐怖。これは、自分で解決できないというところがミソ。本書では、主人公である大学教授のオギが交通事故によって身動きできない身体になってしまい、その面倒をみるのが車に同乗していて命を落としたオギの妻の母、つまり義母だということ。義母は、娘の死がなかなか受け入れられない。しかし、生き残った娘の夫のため、彼を介護する。他人でもあり、あまり打ち解けていなかった二人。だが、そこに娘が生前に書いていた告発文が出てきて、それを読んだ義母の態度が豹変する。


 いったい自分はどうされるのか?身動きできず、話すこともできないオギは、運命を受け入れることしかできない。徐々に浮き彫りになる過去。過ぎた日々が今の自分に降りかかってくる。


 しかし、本書はそれほどの展開を見せずに終結する。この作者にしたら、あまりにも大人しい。そこに大きな穴はない。オギは、穴の中なのだが。