本好きのみなさんならご存知のとおり、ボルヘスといえばアルゼンチンの博覧強記の書痴なのであります。ぼくは常々、ボルヘスとナボコフがノーベル文学賞を受賞していないのは、世界の不当な評価だと思っているのだが、みなさんはどう思われますか?
ま、そんなことはどうでもいい。本書なのであります。本書は、古今東西のあらゆる書物から引っこ抜いてきた不思議で変った断片を92編も収録した、なんとも本好きの心をくすぐる本なのだ。日本語のタイトルが怪奇譚集となっているので、それらしい話ばかり収録されているのかと思いきや、いえいえそんなことはございません。まあ、ほんとに途方もないお話が満載なのであります。
さきほども書いたとおり、本書に収録されているのは長いものでニ、三ページ、短いものでニ行ほどの断片ばかり。だから余分な説明はいっさいございません。言ってみれば、読者はページを繰るごとにあらゆる場所、あらゆる時、あらゆる言語が孕む文化的背景を次々と体験することになる。でもそれは副次的な作用でしかない。ここに精選された92の話は、われわれ未熟な本好きの脳髄の奥に潜む太古から連綿と湛えられてきた数々のイメージ、記憶の集積の残滓、映像をリマインドさせる作用を及ぼす。それは悠久のロマンであり、逃れられない宿命でもある。いやいや、なんか大袈裟なこと言っちゃってるな、ぼく。
とにかく、一編引用してみようか。
くうーっ、シビれちゃうよね。もう、なんか映像が浮かぶわけよ。で、そこに含まれる大いなる物語のエッセンスにクラクラしてしまう。もう一編だけ引用許して。
アグゥイル・アセベド『幻影』(一九ニ七)仮面の男は階段を登っていた。彼の足音が夜の闇にこだました。チク、タク、チク、タク。
何これ?逆立ちしてもこんな描写書けないっての!さすがボルヘス、よくこんなの見つけてくるよね。仮面って、どんな仮面なんだろう?その男はどこから来てどこへ何をしに向かっているのだろう?なんなら、ここから勝手に新しい物語が紡ぎだされるくらいの勢いで想像がふくらんでゆく。
あ、そうそう本書は「ボルヘス怪奇譚集」ってタイトルだけど共編者として「モレルの発明」の作者ビオイ=カサーレスの名もクレジットされていることをここに記しておく。話によると彼の奥さんのシルビーナ・オカンポも編者に加わっているそうな。もともと本書は彼らが編んだ幻想文学のアンソロジーであって、その中から短めの作品ばかりを抜粋した英語版の翻訳なのだそうだ。だから訳者が柳瀬尚紀なんだね。
というわけで、短い作品ばかりなので読み終わるのもすごくはやいけれど、これはお得な一冊。
やっぱりボルヘスかっこいいよねー。
あ、そうそう本書は「ボルヘス怪奇譚集」ってタイトルだけど共編者として「モレルの発明」の作者ビオイ=カサーレスの名もクレジットされていることをここに記しておく。話によると彼の奥さんのシルビーナ・オカンポも編者に加わっているそうな。もともと本書は彼らが編んだ幻想文学のアンソロジーであって、その中から短めの作品ばかりを抜粋した英語版の翻訳なのだそうだ。だから訳者が柳瀬尚紀なんだね。
というわけで、短い作品ばかりなので読み終わるのもすごくはやいけれど、これはお得な一冊。
やっぱりボルヘスかっこいいよねー。