読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

サド「恋の罪」

短篇集 恋の罪 (岩波文庫)

 

 サドのね、適正なほうの小説集なんですよ。あの「悪徳の栄え」とか「ソドム百二十日」とかの怪物級のじゃなくて、もっと普通の展開の小説というわけ。でもね、これが普通じゃないんだな。現代の基準からいえば(基準て、もっぱらぼくの感覚なんだけどね)かなりエグい展開なのだ、これが。

 ぼくは本書を読んで、歌舞伎や山東京伝の伝奇物「桜姫全伝曙草紙」なんかを思い出した。因果がめぐる、あのエグいエグい話だ。親が子を殺す、親と子が交わる。血が流れる。でも、グラン・ギニョルほどじゃないんだけどね。巻頭の「フロルヴィルとクールヴァル、または宿命」を読めば一目瞭然。まあ、よくこんな巡り巡って因果がまとわりつく話を書いたもんだと感心する。いまの時代では到底成立し得ない物語だ。こういうシチュエーションを日本で再現しようとすれば、やはり戦国時代くらいまで遡らなければいけないだろうね。

 サドの作品をちゃんと読むのは本書が初めてだ。印象としては、エンターテイメントとして、ドラマとしてなかなかおもしろい。舞台も本国フランスもあれば、スウェーデンやイタリアもあったりして楽しめるし、歴史的事実も盛り込まれていたりして楽しめる(サドが間違えている記述もあるみたいだけどね)。

 話自体は先に書いたとおりちょっと信じられない展開をみせるが、こちらとしては予測のつく展開で、まさかそういうことにならないよね?この予想があたったりしないよね?とおもいながら読み進め、結局そのとおりになって、あー、やっちゃった!やっぱそうなっちゃうかーと簡単なカタルシスを得られるというわけ。

 というわけで、サドの適正なほうの小説じっくり堪能いたしました。で、今度は違法の方を読んでみようかな?