読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

パウル・シェーアバルト「セルバンテス」

セルバンテス

  ドンキ・ホーテ・デ・ラ・マンチャについては、いつかは読んでみたいと思っているのだが、なかなか手が出ない。とりあえず、敬愛する皆川博子が言及していた本書を読んでみた。

 といって、これは幻想小説に目がない皆川先生がパウル・シェーアバルトの紡ぐ奇想天外な評伝に惚れ込んで紹介していただけあって、ドンキ・ホーテに関してはなんの予備知識も与えてはくれないのだけどね。

 そう、これはドイツの出版社が企画して古典作家を刊行当時(1904年)の文学者たちが紹介する形で書かれた評伝叢書の一冊で、ヘッセがボッカチオ、ホフマンスタールユゴーという風にみな真面目にそれぞれの作家を論じている中で、このシェーアバルトセルバンテスとドンキ・ホーテとサンチョ・パンサを冥界から甦らせ、老象二頭分の大きさの真っ白なロシナンテにまたがって、大空を駆け回って世界一周しちゃうんだからほんと、目の玉飛び出ちゃうよね。

よくまあ真面目に評伝書いている他の作家にまじって、こんなとんでもないもの書けたなあと感心してしまう。しかし、これが生真面目に書かれた評伝とは違い、ドン・キホーテやサンチョが作者セルバンテスのことをあれやこれやと説明したりするのがなかなか楽しい。もちろん、その中身は史実そのままなので、かのセルバンテスがそんな生涯を過ごしていたのかと驚いた。この評伝を小説にしたら、さぞおもしろいものになるだろうね。

 そして彼等冥界からの使者と作者は巨大なロシナンテに跨って、なんと日露戦争真っ只中の海域上空を飛んだりしちゃうのである。

 もう、なんでもありか!ちゅうの。