読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外ミステリ

リチャード・マシスン「奇術師の密室」

みなさんは「探偵スルース」や「デストラップ・死の罠」という映画をご存知だろうか?どちらも古い映画なので、もしかすると知らない人も多いかもしれない。「探偵スルース」は1973年、「デストラップ・死の罠」は1983年の作品である。もう、一昔前…

カーリー・トンプスン「黒い蘭の追憶」

本書はミステリである。しかし、本書で提示される謎は、これがいったいどんな風に説明つけられるんだろう?とこちらが心配になってしまうほどオカルトホラーど真ん中の謎なのである。 いったいどんな謎かというと、19年前に惨殺された五歳の娘の声が聞こえ…

ジル・マゴーン「騙し絵の檻」

この本は多大な期待をもって読んだ。だって、『戦後のベストスリー』だとか『クリスティ、ブランドの傑作にも比肩しうる』とかいわれた日には鼻息も荒くなろうというものだ。 しかし、また前評判に躍らされた。期待でパンパンに膨らんだ胸がラストで一気にし…

ローリー・リン・ドラモンド「あなたに不利な証拠として」

本書は、今年度の「このミス」海外部門1位を獲得した。 国内の1位にもブッ飛んだが、海外部門の本書の1位にも少なからず驚いた。いや、誤解を招きそうなので言い添えておくが、本書は間違いなく傑作である。近年、これほど心を揺さぶられた本もめずらしい…

ヘイク・タルボット「魔の淵」

古今東西の密室物であなたが一番傑作だと思う作品は何ですか? そんな質問をされたら、あなたならどう答えるだろう? ぼく?う~ん、にげるわけではないが再三言及してるようにぼくは密室物のいい読者ではないみたいだ。 だから、これだ!とオススメできる作…

A・B・コックス「プリーストリー氏の問題」

ここ数年の海外古典ミステリ飽和状態は、ミステリファンにとってはうれしくて悲しい悲鳴を上げさせるものだった。どうしてうれしくて悲しいのかというと、長らく読めなかった名のみ聞く作品が手に入るようになったのがうれしくて、でもそれを購入するには懐…

ピーター・ディキンスン「キングとジョーカー」

この本も昨年ブログ開設間もない頃一回紹介しているのだが、いま一度紹介したいと思う。なぜならば、今度めでたく本書が扶桑社ミステリー文庫から復刊されることになったからである。 最近、ディキンスンの作品がちょこちょこ刊行されていたので、このまま人…

ジョナサン・ケラーマン「大きな枝が折れる時」

小児専門精神科医アレックス・デラウェアを主人公とする傑作ハードボイルドである。これは読んだとき鮮烈な印象を受けた。 サンセットブルヴァ-ドの高級アパートメントで精神科医と女が惨殺される。唯一の目撃者である七歳の少女は、怯えて証言できる状態に…

チャールズ・ウィルフォード「マイアミ・ブルース」、「マイアミ・ポリス」

ホウク・モウズリー刑事のシリーズは、第一弾が創元推理文庫から、第二弾以降は扶桑社ミステリーから刊行されている。ちょっと変わったパターンだ。 第一弾の「マイアミ・ブルース」が刊行されたのが1987年。第二弾の「マイアミ・ポリス」が1988年。…

A・A・ミルン「赤い館の秘密」

とりたてて素晴らしいトリックがあるわけでもなく、アッ!と驚くどんでん返しがあるわけでもないのに一読すればわかるとおり、本書はいつまでも心に残る名作となり得ている。 それは、全編を覆うユーモアのおかげであり、探偵役のアントニー・ギリンガムの魅…

ドナルド・A・スタンウッド「エヴァ・ライカーの記憶」

本書の記事は以前ブログ開設まもない頃に書いたのだが、今一度みなさんに紹介したいので再投稿したいと思う。本書はぼくがいままで読んできた翻訳ミステリーの中でベスト10を選ぶとするなら、まぎれもなく上位3位以内には選出するであろう傑作ミステリー…

ミネット・ウォルターズ「女彫刻家」

ミネット・ウォルターズは、本書しか読んだことがない。なかなか読み応えのあるミステリだった。読んでいてゾクゾクした。母と妹を惨殺し、バラバラにした上またそれを人間の形に並べなおすという凶悪で猟奇的な犯罪を犯した女オリーヴ。しかし、彼女を精神…

アラン・グリーン「くたばれ健康法!」

ユーモアミステリの定番として有名だった作品。いまではその存在を知らない人も多いかもしれない。 でも、数年前に復刊されているので読んでる人も多いのかな? かのアントニー・バウチャーをして『カーの「盲目の理髪師」と並ぶユーモア・ミステリの最高傑…

ジェイムズ・エルロイ「ブラック・ダリア」

一番最初に読んだエルロイの本が本書だった。 ミステリ好きの人なら説明するまでもないだろうが、「ブラック・ダリア事件」は実際にあった事件である。1947年1月15日に、ロサンジェルスの空地で女性の死体が発見された。その死体には激しい損壊が加え…

キリル・ボンフィリオリ「深き森は悪魔のにおい」

十五年探し続けて読んだ本である。といえば大層に聞こえるが、要はネットをするようになったら案外簡単に見つかったというわけだ。 この本の存在は、当時指南書として大変重宝した角川文庫の「活字中毒養成ギプス ジャンル別文庫本ベスト500」という本で知っ…

アントニイ・バークリー「レイトン・コートの謎」

ロジャー・シェリンガムという特異な探偵は、本書と「第二の銃声」の二冊でお知り合いになったのだが、もうそれだけでこの探偵の魅力にどっぷりハマってしまった。彼は風貌こそ違えども、そのスタンスはキートンかチャップリンかと思うほどの喜劇役者である…

ウィルキー・コリンズ「月長石」

物語の構造としては、事件が終息して後日に各関係者が、当事者視点でそれぞれの体験を証言するという体裁をとっている。それは、月長石盗難の舞台となったヴェリンダー家に仕える老齢の執事であったり、親戚の狂信的なキリスト教信者の女性であったり、顧問…

ドン・ウィンズロウ「砂漠で溺れるわけにはいかない」

二ール・ケアリーシリーズの栄えある第一巻「ストリート・キッズ」が刊行されてから13年目にしてやっと最終巻が刊行された。本国では1996年に刊行されているのだが、諸事情により翻訳は遅れに遅れ今月刊行されたというわけだ。この辺の事情は巻末の〈…

アイラ・レヴィン「死の接吻」

アイラ・レヴィンは、天才型の作家である。彼はミステリ、ホラー、サスペンスそれぞれのジャンルにおいて傑作をこの世に残した。以前紹介した「ブラジルから来た少年」はサスペンス物の代表作だが、彼はそこに新たな要素を盛り込み、後世に残る作品とした。 …

ディクスン・カー「夜歩く」

いわずとしれた、カーのデビュー作である。 ここで断っておきたいのだが、ぼくは当初カーを英国人だと思っていた。なぜかしら、そう思い込んでいた。彼の創造した二大探偵のフェル博士とH・M卿が英国人だったというのもあるのかもしれないが英国に移り住む…

ラリイ ・ワトスン 「追憶のスモールタウン」

過去の出来事を振り返る時、当人はもちろん成長しているわけだから当時の状況を第三者的な目で判断できるわけで、そうするとそこに事実を語る以上の様々な解釈がうまれる。当時の心情、そして今になって思う心情。リアルタイムでなく回想することによって物…

ローレンス・サンダース「ルーシーの秘密」

この本も絶版になってると思う。ぼくが持ってるのは1987年の徳間文庫だ。 サンダースの本は、世評高い大罪シリーズは未読で本書とデビュー作の「盗聴」だけを読んだ。 「盗聴」は、おもしろい題材だったがいまひとつノレなかった。いま読めばさらに古臭…

クリスチアナ・ブランド「疑惑の霧」

10年以上前に早川のポケミス1600番突破記念として、幻の名作が二十点復刊されたのだが、その中の一冊が本書だった。他にもフェラーズ「間にあった殺人」、カー「毒のたわむれ」、ブレイク「証拠の問題」、ヘアー「ただひと突きの……」などが復刊された…

ローリー・リン・ドラモンド「あなたに不利な証拠として」

もともと早川のポケミスから出ていた本なのだが、ミステリ色は薄い。警官が出てきて事件も起こるのだが、ミステリとしての特色はないのである。では、いったい本書には何が描かれてるのか? 本書には5人の女性警官を主人公にした短編が10編収められている…

イアン・コールドウェル/ダスティン・トマスン「フランチェスコの暗号」

実存する古書「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」に隠された秘密が多くの人の人生を狂わせる。プリンストン大学を舞台にこの魅惑的な謎が五百年の時をこえて解明されるのか? といった感じの見出しがぴったりくる本書は、まずその問題の本「ピュプネロトマキ…

ピーター・ワトスン「まやかしの風景画」

宝探しというのは、いくつになってもワクワクしてしまう。ポーの「黄金虫」、乱歩の「二銭銅貨」、インディ・ジョーンズもそうだし、いま話題の「ダ・ヴィンチ・コード」もある意味宝探しの物語だ。 そんな連綿と続く『宝探し』小説の系譜に連なる傑作が本書…

テリ-・ホワイト「真夜中の相棒」

やりきれない話ではないが、救いのない話である。正直いってとても辛い話なのだ。 本書の結末がけっしてハッピーエンドではないのは最初からわかっている。だが、どうしても見届けたい、この三人のアウトロー達の行く末を見ておきたいと思わせる何かがあるの…

ジャック・ケッチャム「隣の家の少女」

ジャック・ケッチャムの本は数冊読んだが、本書を越える話はなかった。ドメスティック・バイオレンスの話も、人を食う話も、妊婦を監禁する話も、なんとも思わなかった。しかし本書は違った。 これほど無残な話は読んだことがなかった。「ミザリー」なんか足…

ハワード・ブラウン「夜に消える」

本書は、1985年に刊行された。いまから二十年以上前である。 本書の謎は非常にシンプルだ。ちょっと目を離したすきに妻がいなくなるのである。 ホームズシリーズには『語られざる事件』というのがある。事件の名のみ出てきたり、さわりだけ紹介されたり…

アリステア・マクリーン「恐怖の関門」

はっきりいって冒険小説は、あまり得意な分野ではない。 シュミレーションゲームがあまり好きでないのと同じで、細かい戦局の説明や軍事戦略などに疎いものだからどうにもついていけないのだ。 そんな冒険小説を敬遠しがちなぼくでもおもしろく読んだのが本…