一番最初に読んだエルロイの本が本書だった。
ミステリ好きの人なら説明するまでもないだろうが、「ブラック・ダリア事件」は実際にあった事件である。1947年1月15日に、ロサンジェルスの空地で女性の死体が発見された。その死体には激しい損壊が加えられており、胴体はウェストの部分で両断され全身にナイフによる切り傷や殴打の痕があった。また美しかったであろう顔も両頬が切り裂かれ、血まみれの笑顔となっていた。
悪夢のような死体である。殺された女性は、エリザベス・ショートという女優を夢見ていた娼婦。このショッキングな事件は、迷宮入りとなった。大々的な捜査もされ、数々の人が解決を試みたが犯人は特定されなかった。
エルロイは、このあまりにも異常な事件を悪魔的な執念で追いつづけた男を通して描いている。
その描きようは凄まじく、アクが強いために読了したときはすっかり疲れてしまった。エルロイの文章は独特だ。ぼくは、とっつきにくかった。ほんと疲れた。
しかし、読ませるのも確かである。フィクションとノンフィクションの境界を取りはらい、つけ入るスキのない堅牢な世界を構築している。
意外だったのが、四十年代のアメリカを描いているのに風俗的なギャップをまったく感じなかったことだ。おんなじ時代を舞台にした国内物だったら、こういう風にはいかなかっただろう。
とにかく、凄まじい本である。これ一冊で、一年分は血にまみれてしまった感じがする。エルロイ自身の体験が本書を書く黒い動機になったのだろう。それは本書が惨殺されたという彼の母親に捧げられていることからもよくわかる。まるで、悪夢のような本である。
尚、本書はデ・パルマ監督によってこのたび映画化された。テリー・ギリアムとならんでぼくの大好きな監督なのだが、さて彼はこの暗黒小説をどのように料理しているのか楽しみなところである。