本書は、1985年に刊行された。いまから二十年以上前である。
本書の謎は非常にシンプルだ。ちょっと目を離したすきに妻がいなくなるのである。
ホームズシリーズには『語られざる事件』というのがある。事件の名のみ出てきたり、さわりだけ紹介されたりして本編には登場しない事件たちだ。その中でも特に有名で、魅力的な謎の事件が「ジェイムズ・フィリモア氏の失踪」事件である。出掛けようとして、いったん家を出たフィリモア氏は傘をとりに家に戻っていき、そのまま消失してしまう。なんとも、シンプルで魅力的な謎ではないか。
本書の謎も然り。とてもシンプルだが、謎自体がとうていあり得ないものなので、これにどう論理的な説明がつくのかとても興味をかられるのである。
だから、読者は冒頭でいきなり首根っこをがっちりつかまれてしまう。そして謎を追ってラストまで一直線、主人公と一緒に全速力となってしまうのである。
だが、この手のミステリで満足のいく結果を得られることは非常に少ない。
そんな中でラストで少しばかり御都合主義が顔をのぞかせながらも、一応満腹感を味わわせてくれた本書は80点といったところか。読んで損のない本であることは確かだ。