読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外ミステリ

ジョー・R・ランズデール「ババ・ホ・テップ  現代短篇の名手たち 4」

ランズデールといえば、ぼくの中ではずっと前から短篇の名手だった。彼の作品をはじめて読んだのは新潮文庫から出ていたホラー・アンソロジー「ナイトソウルズ」に収録されていた「大きな岩のある海辺で」だった。キャンプに来ていた家族を襲う未曾有の怪異…

ジャック・カーリイ「百番目の男」

驚愕の真相だということで、多大なる期待を寄せて読んでみたのだが、なるほどこの真相には驚いた。 前評判を踏まえた上での驚愕なので、これ、真っ白な状態で読んでいたらさぞかし驚いたことだろう。 何がスゴイといって、こんなことを思いつく発想に感嘆し…

ヘレン・マクロイ「暗い鏡の中に」

マクロイの二冊目として本書を選んだ。こちらは早川文庫のマクロイ絶版本である。創元のマクロイ復刊の反響が良ければこちらも復刊されるんじゃないかと思うのだが、どうだろう。 実をいえば、本書のことは随分以前から知っていた。1992年にカタログハウ…

ヘレン・マクロイ「幽霊の2/3」

この本を読むまでの道のりは長かった。復刊リクエストを呼びかけたこともあったなぁ。かといって、ヘレン・マクロイの熱烈なファンなのかと言われれば、すごすごと引き下がらねばならない。だって、彼女の本を読むのは本書が初めてなのだから^^。でも、な…

アンドレア・M・シェンケル「凍える森」

1950年代半ば、ドイツのバイエルン地方の南で一家惨殺事件が起きた。殺されたのは6人。農場主であるダナーとその妻。彼らの娘であるバルバラ。バルバラの幼い子であるマリアンネとヨゼフ。そして殺された日にこの家にやってきたなんとも不運な使用人の…

ジェイムズ・グレイディ「狂犬は眠らない」

これ、本選びの嗅覚のみによって買ったんだけど、なかなか良かった。あらすじは非常にシンプル。5人の登場人物がいるのだが、これがみなCIAの諜報員で、過去に任務でひどい目にあわされて、いまは政府が管理するシークレットな精神病院に収容されている…

ダン・ブラウン「天使と悪魔」、「ダ・ヴィンチ・コード」

「天使と悪魔」の映画がこんど公開されるということで、それならばと、このラングドン教授のシリーズも紹介しておこうかなと思った次第。このシリーズのことを知ったのは、おそらくみなさんと同じ2004年の春の頃だった。このとき鳴り物入りで出版された…

ジャック・ルーボー「麗しのオルタンス」

「本が好き!」の献本である。 やっぱりフランス産には少し抵抗あるんだなぁ。本書の眼目である少々実験的ともいえる作者のたくらみは、日本でいえば筒井康隆あたりがやってるような試みなのだが、これがどうもしっくりこなかった。 物語の途中で挿入される…

小鷹信光 編著「〈新パパイラスの舟〉と21の短篇」

これはかなりの労作である。一冊の本に纏められると読む方としては非常に手軽なのだが、これだけのデータを集めるというのはちょっとやそっとでは出来ない芸当だと感心してしまった。 小鷹信光といえば、ぼく的にはハードボイルドの大家っていうイメージがあ…

R・D・ウィングフィールド「フロスト気質(上下)」

前回の「夜のフロスト」が刊行されたのが7年前。本書の原書が刊行されたのは13年前だ。ということは、「夜のフロスト」が翻訳刊行されたときには、もうすでに本国イギリスでは本書は刊行されていて、あまつさえ次のシリーズ5作目までもが書店に並んでい…

ローラ・ウィルソン「千の嘘」

「本が好き!」の献本である。 本書の解説の冒頭で千街昌之が警告している。『本書は、血のつながった家族のあいだで行われた虐待とそれを発端として十数年後まで尾を引く悲劇の物語である。読者には、この地獄から目を背けない覚悟が必要とされる』と。しか…

リチャード・プライス「聖者は口を閉ざす」

本書で描かれるのは、善行の意味である。本書のエピグラフに「マタイによる福音書」が引用されているのだが、そこにはこんなことが書かれている。ちょっと長いが書き出してみよう。 「見てもらおうとして、人の前で善行をしないように注意しなさい。さもない…

ロバート・エリス「ロミオ」

「本が好き!」の献本である。 ちょっとまって、みなさん。この表紙を見て、ダメだこりゃと思ったあなたも、ちょっと待っていただきたい。この、いかにもロマンスミステリっぽい表紙は、ここにこられるすれっからしのミステリマニアの方々には、まず手にとる…

フレッド・ヴァルガス「論理は右手に」

「本が好き!」の献本である。 この人は、本書のシリーズ第一弾である「死者を起こせ」とゆきあやさんもそこそこの評価をしていた別シリーズの「青チョークの男」の二作邦訳が出ていて、概ね好評だったと記憶している。 ぼくも「死者を起こせ」は読もうと思…

セオドア・ローザック「フリッカー、あるいは映画の魔」

この本も以前に一度紹介した。二年前のことだ。 しかし、いま一度この本の凄さをここで力説したいと思う。本書が刊行されたのは1998年。憶えておられる方も多いかと思うが、本書はその年の『このミス』海外部門の1位に輝いた。別に『このミス』の評価を…

クリスチアナ・ブランド「ぶち猫 コックリル警部の事件簿」

今年はブランドの生誕100周年なのだそうだ。 本書はそれを記念しての出版ということで、コックリル警部が登場する戯曲、短編、エッセイなどが収録されているファン待望の作品集ということになっている。だから、本書はブランドのファンが読んでこそ感慨深…

ジャック・リッチー「クライム・マシン」

いまさらながら、ジャック・リッチーを読んでみた。本書が刊行されたのは二年前、いまではもう第三弾が刊行されていて日本でも知名度が定着した感がある。 本書は、日本オリジナル編集の短編集である。三百五十篇にも及ぶ短編を書き、邦訳作品も百二十篇ある…

D・M・ディヴァイン「悪魔はすぐそこに」

ディヴァインはその昔、まだ現代教養文庫が「ミステリボックス」と銘打って翻訳ミステリを出していた頃に話題になった作家である。ミーハーなぼくは、その当時それだけ評判がいいならと「兄の殺人者」と「五番目のコード」の二冊は購入してあったのだが、例…

ジョン・ダニング「災いの古書」

待望のクリフ・ジェーンウェイシリーズ最新刊の登場だ。前回の「失われし書庫」から三年。今回はわりと早く刊行されたほうだ。だって第二作と第三作のインターバルは七年だったからね。 翻訳ミステリに限って言及するならば、本来飽き性のぼくが飽くことなく…

マーク・ミルズ「アマガンセット ―弔いの海」

まずこのタイトルに目を惹かれた。アマガンセットとは妙にハートをくすぐる響きだ。でも、いったい何をさす言葉なのかがわからない。おそらく地名なのだろうと見当はつけたが、そんな地名きいたこともない。アイルランドあたりの地名なのかな?と思っていた…

マイケル・ホワイト「五つの星が列なる時」

まず驚いたのが本書の著者マイケル・ホワイトがトンプソン・ツインズのメンバーだったということ。 ぼくの知ってるトンプソン・ツインズは三人編成だったが、その中にはいないようなので、三人編成になる前に在籍していたのかな?ま、とにかくなかなか才気活…

ウィリアム・ディール「真実の行方」

この人は最初、冒険小説家としてわが国に紹介された。それらはすべて角川から出版されていた。 それほどブレイクはしなかったが、玄人筋には割りと評判がよかったように記憶している。そんなディールがサイコサスペンスで一躍脚光を浴びたのが本書「真実の行…

ヒラリィ・ウォー「生まれながらの犠牲者」

ヒラリィ・ウォーといえばやはり「失踪当時の服装は」が大変有名なのだが、生憎それは読んだことがない。だから、本書を読むまではヒラリィ・ウォーとアンドリュー・ガーヴを混同してしまうくらい浅い認識しかなかった。ぼくはこの作家の混同というのをよく…

ジェフリー・ディーヴァー「静寂の叫び」

ジェフリー・ディーヴァーを全然読んでなかったりする。あの超有名なリンカーン・ライムのシリーズも一冊も読んでない。というか、ディーヴァーに代表されるミステリーや所謂エンターティメント作品に関して、とんと疎くなってしまっている。だからマイクル…

アンドリュー・テイラー「天使の遊戯」

四歳のあどけない少女ルーシーが誘拐される。初の女性副牧師として順風満帆とはいわないまでも、ようやっと己の信じる道を歩みだしたサリーは娘の誘拐という現実に打ちのめされる。娘が誘拐されたのは、自分の都合で娘を子守に預けたからだと自らを攻め苛む…

トマス・ハリス「ハンニバル」

3月28日にシリーズ最新作の「ハンニバル・ライジング」が発売されるということなので、前作にあたる本書を紹介しておこうかと思う。 この稀代の殺人鬼であるハンニバル・レクター教授が登場する人気シリーズは、世間の評判に対してぼくの評価はそれほどで…

プリーストリー「夜の来訪者」

普段一番縁遠い文庫が岩波文庫なのだが、2月の新聞広告を見ててとても気になったのが本書だった。 『息もつかせぬ展開』『最後に用意された大どんでん返し』。なんですと!これはミステリなのですか? すごく煽ってくれるじゃないの。戯曲ということだけど…

クリスチアナ・ブランド「暗闇の薔薇」

未読のブランド作品を横目にこの最後の作品だけは先に読んでしまった。なんか、変な感じである。 というわけでブランド最晩年の作品だそうで、これ書いたときはかなり高齢だったはずなのに、どうだろうこの完成度は。読者は開巻早々、作者の挑戦に直面するこ…

リドリー・ピアスン「深層海流」

この人はこれ一冊しか読んでないのだが、本書を読んだ限りではなかなか器用な作家だという印象を持った。タイトルからは予想もつかないが、本書で描かれるのは残忍な連続殺人事件だ。 シアトル市内で八件の連続殺人事件が起きる。若い女性ばかりを狙ったその…

リチャード・マシスン「奇術師の密室」

みなさんは「探偵スルース」や「デストラップ・死の罠」という映画をご存知だろうか?どちらも古い映画なので、もしかすると知らない人も多いかもしれない。「探偵スルース」は1973年、「デストラップ・死の罠」は1983年の作品である。もう、一昔前…