読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

イアン・コールドウェル/ダスティン・トマスン「フランチェスコの暗号」

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 実存する古書「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」に隠された秘密が多くの人の人生を狂わせる。プリンストン大学を舞台にこの魅惑的な謎が五百年の時をこえて解明されるのか?

 

 といった感じの見出しがぴったりくる本書は、まずその問題の本「ピュプネロトマキア・ポリフィリ」を知ったことが大きな収穫だった。かつてあの澁澤龍彦氏が「ポリフィルス狂恋夢」として紹介したこともあるこの本は、あまりの難解さゆえに一般には知られず好事家や研究者のみが取り上げるだけの本でもあったそうである。

 

 では、どこが難解なのか?タイトルはラテン語で「ポリフィーロの夢の中における愛のための苦闘」という意味なのだそうで、要するに夢見る男を描いた世界最長の書というわけなのだ。しかし、そのような体裁をとっているにも関わらず、百科事典、建築学、動物学はては古今東西の哲学、思想あらゆる事象を飲み込んで、まどろっこしく長々とイタリア語、ラテン語、造語を散りばめて書かれており、この本にくらべればあのプルーストの大作でさえかすんでしまうほどなのだ。

 

 こんな本が実在していたとは!まったく知らなかった。トリビアだ^^。本書の要の謎の解明なのだが、これがいい。真相を知った時の衝撃はなかなかのものだった。イエス磔刑される時のような、厳かですさまじいオーラが出てて、これは胸に残った。なんか変に感動しちゃったなあ。

 

 かといって、本書をベタ褒めする気もない。というのも、主人公のトムと彼の友人達そして恋人のケイティを中心に物語が進められてゆくわけなのだが、本書の語りは過去を振り返る回想の形式で語られる。その時系列がなんだかしっくりこない感じがした。それと、登場人物達の言動についていけない部分があった。倫理的、道徳的とかじゃなくてエリート大学生の頭の回転の速さにぼくがついていけなかったといったほうがいいのかな^^。

 

 というわけで、いろいろ好き勝手書いてたが、要するにどうなんだといわれれば総合的に良かった。なにぶん、謎の真相の衝撃がまだ残っている。いい夢みさせてもらったなあと思うわけだ。ほんと、この真相がほんとなら世界がひっくりかえる発見だ。ロマンだな。本書が出た当時は、話題の「ダ・ヴィンチ・コード」に便乗した本だと思ったが、読んでみれば、これはこれでよかった。

 

 尚、本書の真相の場面はデヴィッド・マドセン「グノーシスの薔薇」にも登場する。