読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ローレンス・サンダース「ルーシーの秘密」

イメージ 1

 この本も絶版になってると思う。ぼくが持ってるのは1987年の徳間文庫だ。

 サンダースの本は、世評高い大罪シリーズは未読で本書とデビュー作の「盗聴」だけを読んだ。

 「盗聴」は、おもしろい題材だったがいまひとつノレなかった。いま読めばさらに古臭く感じることだろう。盗聴する機材にしても格段の違いがあるだろうからね。

 しかし、本書はたぶん今読んでも充分おもしろいと思う。なぜなら本書で描かれるのは太古の昔から変わることのない人間の欲望と苦悩だから。

 登場するのは三組の家族。舞台はフロリダ。三家族とも裕福で地位にも恵まれ、パーティ三昧の楽しい日々を送っている。だが、それは表面的なものでしかなかった。フロリダの陽気な日差しとは裏腹に、影で行われる男女の営み。酒とマリファナ。人間の暗部が描かれ、苦悩が描かれ、策略が描かれ、愛情が描かれる。アメリカの家族の日常を描いているだけなのに、どうしてこんなにおもしろいんだろうと思う。そう、家族を描いてながらも本書で取り上げられる問題はいまだに解決しないアメリカの病巣なのである。タイトルにあるルーシーとは、本書のメインテーマである八歳の少女のことである。

 開巻早々、読者はこの少女が精神科医のもとを訪れていることを知る。この少女、男性に対して性的な異常な行動をとるのである。物語を追うごとにこの少女の秘密が明らかにされる。四年前に起こったある事件。少女を蝕んでいるその秘密とはいったい何なのか。

 サンダースのストーリー・テリングの見事なこと。俗世的な話題を扱いながらも、一級のエンターテイメントとして仕上げている。純粋なミステリではないが、かなりおもしろい作品である。

 古本で見つけたら、是非手にとってみて下さい。