ホウク・モウズリー刑事のシリーズは、第一弾が創元推理文庫から、第二弾以降は扶桑社ミステリーから刊行されている。ちょっと変わったパターンだ。
第一弾の「マイアミ・ブルース」が刊行されたのが1987年。第二弾の「マイアミ・ポリス」が1988年。そのあとこのシリーズは「あぶない部長刑事」、「部長刑事奮闘す」と第四弾まで刊行されている。ぼくが読んだのは今回紹介する「マイアミ・ポリス」までである。丁度折り返し地点だ。
このシリーズの魅力は、ちょっと一言では説明できない。とにかく、読んでて楽しい。第一弾「マイアミ・ブルース」では、まだそれほど昇華された形にはなっていなかったが、次の「マイアミ・ポリス」では、その魅力が全開だった。
「マイアミ・ブルース」は、まだこのシリーズの方向性が決まっていなかったのか主人公をホウクに特定せず物語は三人称多視点ですすめられていく。いわゆる群像劇だ。扱われている犯罪も一人の重罪人を追いつめるといういささかハードな内容で、それほどユーモアも介在してなかった。
だが、第二弾の「マイアミ・ポリス」では物語の雰囲気がガラリと変わってしまうのである。ここではホウク部長刑事が主人公。相変わらず様々な犯罪が起こり、超多忙の毎日を送っている。しかし、ここで描かれるのは警察の犯罪捜査だけではないのだ。ここでは、ホウクのプライベートな問題が多々浮上してくる。十年前に離婚した妻への慰謝料を払うためにどんどん増えていく借金。借金を抱えた生活のためにまともな住まいも得られず、いまでは保安係を兼ねて安アパートに仮住まいの身。
そんな極貧生活をしているところへ別居していた二人の娘たちが押しかけてくる。
そうかと思えば、部下であるキューバ人の女性刑事が家庭の問題から家出してしまう始末。ただでさえ目が回るほど忙しいのにプライベートでこんなに問題が起きたら、いったいどういうことになるのか?
「マイアミ・ポリス」のおもしろさはそこにある。いってみれば変格のモジュラー型警察小説なのだ。そういった意味では、あのフロスト警部シリーズに似てなくもない。読んでるこちらのほうが、キー!となりそうな展開なのだ。
主人公のホウクの人物造形も素晴らしい。彼はいわゆる正義感に燃えるタイプの警官ではない。プライベートでも警察の威光を使いまくるし、警官らしからぬ行動など日常茶飯事だ。犯行現場の金をくすねた部下に目くじらをたてるわけでもなく、領域侵犯などお手のもの。そこが、たまらなく人間臭い。人間臭くておもしろい。マイアミの抱える問題ゆえの諦観に裏打ちされた彼の行動基準が垣間見え興味深い。
他のキャラクターもホウクの娘たちを筆頭に、みな個性派揃いでそれぞれ魅力的だ。
とにかくこのシリーズはおもしろい。あんまりおもしろいもんだから、読み終わるのが惜しくて未だにシリーズの続きを読んでいない。
というわけで、もうそろそろ続きを読んでみてもいいかなと思っている今日この頃なのである。