この本も昨年ブログ開設間もない頃一回紹介しているのだが、いま一度紹介したいと思う。なぜならば、今度めでたく本書が扶桑社ミステリー文庫から復刊されることになったからである。
最近、ディキンスンの作品がちょこちょこ刊行されていたので、このまま人気に火がつけばいいなぁと思っていたのだが、まさかこの本が刊行されるとは思ってもみなかった。うれしい限りである。
これでまた再評価が高まれば、いまではサンリオ文庫の中でもお宝度ナンバー1といってもいいあの「生ける屍」も復刊されるのではないだろうかと期待が高まる。というか是非そうなって欲しいものだ。
さて、そんなこんなで興奮ばかりしてられないので本書の紹介にいきたいと思う。
舞台は、パラレルな英国のロイヤルファミリーがいるバッキンガム宮殿。王女ルイーズは、朝食の席でいたずらを目撃する。王が自分の皿の蓋をとると、大きながま蛙がのっていたのである。最初は他愛ないいたずらに思われたこの事件が、やがて宮中をゆるがす殺人事件まで引き起こすことになろうとは、この時は誰も知るよしはなかった。宮中警備隊とロンドン特捜部の裏をかき暗躍するジョーカー。目的はなんなのか?ジョーカーとは誰なのか?
これは結構オフビートな作品だった。主人公は王女ルイーズなのだが、彼女が子どもながらにとても健気だった。様々な思惑と明かされてゆくロイヤルファミリーの秘密に押しつぶされそうになりながらも王女としての矜持を保ち、ひしゃげてしまいそうな自分を保とうとする姿が痛々しくもあり、とても惹かれてしまう。それに、明かされる秘密の酷なこと。ぼくだったら耐えられないかもしれない。
ディキンスンが作りあげた架空のロイヤルファミリーは、人間味にあふれていて、みな魅力的。特に印象に残ったのは、乳母のダーディかな。三代にわたるファミリーの後見役だった彼女は、いまでは寝たきりとなっているのだが、彼女がすべての鍵を握る存在なのだ。一度も結婚せず、一族の世話をするだけで一生を終えてしまう彼女に、しかし悲哀はない。とても大きくて全能的な存在感がある。
とても素敵なおばあさんだ。
とまあ、こんな感じでミステリのおもしろさもさることながら、王室をめぐる群像劇としても秀逸な本書は数多いディキンスンの作品の中でも一、二を争う傑作であることは間違いない。
今回の復刊は本当に喜ばしい限りだ。扶桑社の英断に拍手をおくりたい。