この本は多大な期待をもって読んだ。だって、『戦後のベストスリー』だとか『クリスティ、ブランドの傑作にも比肩しうる』とかいわれた日には鼻息も荒くなろうというものだ。
しかし、また前評判に躍らされた。期待でパンパンに膨らんだ胸がラストで一気にしぼんでしまった。
それでも、お約束ともいうべきラストの一同を集めての謎解きは、なかなかのロジックだったのだ。
しかし、法月綸太郎君が大興奮していう畳みかけるような十ページ足らずの解決編がカタルシスを削いでしまってるのも事実だ。『アクロバット、超絶技巧』と法月氏はベタ褒めなのだが、ぼくはどうもテンション下がってしまった。推理の根底を覆すラストの論理の飛躍。また、それを証明する証拠の扱いと論理の妙。クイーンでも、クリスティでも、ブランドでも、カーでもない硬質な文体。
やはり傑作なのだろうとは思うが、ぼくは好きじゃなかった。
それに、根本的に復讐に燃える主人公っていうのが、好きじゃなかった。ほんと、感情移入できなかった。本格推理のランク的には、とっちらかった部屋を指をパチンと鳴らしただけで、きれいにしてしまうほどの鮮やかさがあったんだけどなー。