読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

A・B・コックス「プリーストリー氏の問題」

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 ここ数年の海外古典ミステリ飽和状態は、ミステリファンにとってはうれしくて悲しい悲鳴を上げさせるものだった。どうしてうれしくて悲しいのかというと、長らく読めなかった名のみ聞く作品が手に入るようになったのがうれしくて、でもそれを購入するには懐具合がさびしいのが悲しいからである(笑)。

 本書「プリーストリー氏の問題」は2004年に刊行された。言わずもがなだが、コックスというのはバークリーの別名義である。

 もともとバークリーは技巧派ミステリに加え上質のユーモアを得意とする作家で、別名義の本書はそのユーモア面がさらに強調された作品となっている。

 内容は典型的なまきこまれ型ミステリだ。生真面目で面白味のない人生を歩んできたプリーストリー氏が、ある夜ピカデリーを散策中美女に助けを求められ、奮起して冒険に乗り出したまでは良かったが、次々と予想外の出来事に出くわし、やがてその美女と手錠につながれたまま逃げまわる羽目になる。

 ほんとこの本は楽しかった。明確で単純な大筋と、それをスラプスティックにもつれさせてゆく愉快な登場人物たち。往年の喜劇映画のような大らかさと、ドタバタ。ほんとディック・バンダイクあたりのハイテンションな演技で映画化されてたら、さぞかし楽しい映画になったろうにと残念に思ってしまったくらいだ。バークリーも偏愛したというウッドハウスの作品より数段おもしろいと思った。物語の発端からどんどん話がふくらんで、各人の思惑と行動が招く結果が絡まりあい、話が混迷していく。

 イギリスのハイクラスを揶揄する皮肉な視線と、紳士の振る舞いが巻き起こすほのかな笑い。ロマンティック・コメディーとしてヘップバーンの「シャレード」にも似たシャレた作品に仕上がっている。

 これでバークリー作品は三冊読んだことになるが、一冊もハズレがなかった。傑作といわれる「毒入りチョコレート事件」を読まずしてこの評価だから、もしかするといまのところぼくの中で一番だと思っているブランドを抜いてそのうちバークリーが堂々の1位を獲得することになるかもしれない。

 なんちゃって。