読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

アイラ・レヴィン「死の接吻」

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 アイラ・レヴィンは、天才型の作家である。彼はミステリ、ホラー、サスペンスそれぞれのジャンルにおいて傑作をこの世に残した。以前紹介した「ブラジルから来た少年」はサスペンス物の代表作だが、彼はそこに新たな要素を盛り込み、後世に残る作品とした。

 デビューから14年の沈黙を破って発表した「ローズマリーの赤ちゃん」では、一大オカルトブームを巻き起こした。

 そして今回紹介するのが、そんな彼のデビュー作であり、世の瞠目を集めた「死の接吻」なのである。

 本書はミステリフリークの方なら、ほとんどの方が読まれていることと思う。過去のミステリランキングにおいても本書は常に上位にくるオールタイムベストの作品だ。

 確かに本書には、24歳の青年が書いたとはにわかに信じがたい完成度がある。発表と同時に古典となったといっても過言ではないだろう。しかし物語としての構築美は完璧だが、ぼくは本書の犯人が好きじゃない。犯人に対して好きも嫌いもないと思うが、正直いって本書の犯人像には嫌悪感をおぼえる。それでも、認めてしまうのはやはり本書がそれだけ完成された作品だからだろう。

 まず、構成の妙だ。これはどこでも言及されていることだが、三部構成の第一部で主人公を彼と表記することにより、犯人が誰なのかわからないという仕掛けを施している。犯人の名は中間部であっさり明かされるのだが、この構成は秀逸だ。認めざるを得ない。何回も引用している「東西ミステリーベスト100」では本書は17位だったが、そこでの〔うんちく〕で『要するに、寝ながら読んでいると途中で思わず起き上がる本なのである』と紹介されているのが言いえて妙である。

 犯人が明かされてからは彼を追いつめる展開になるのだが、ラストでは不覚にも鼻の奥がツーンとなってしまった。おいおい、毛嫌いしていた犯人に同情したのか?と誤解されそうだがそうではない。

 犯人は嫌悪したままだったが、他の部分で胸が熱くなってしまったのである。この悲痛なラストシーンはいまだに忘れられない。古い作品だが、この感情は永遠のものだろうと思う。未読の方は、そのへんを吟味されたい。既読の方は、どう感じたか感想を聞かせていただきたい。既読で忘れてしまった方はもう一度読んで新たな感想を聞かせていただきたい。そう思う所存であります^^。