読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

キリル・ボンフィリオリ「深き森は悪魔のにおい」

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 十五年探し続けて読んだ本である。といえば大層に聞こえるが、要はネットをするようになったら案外簡単に見つかったというわけだ。

 この本の存在は、当時指南書として大変重宝した角川文庫の「活字中毒養成ギプス ジャンル別文庫本ベスト500」という本で知った。話は逸れるが、この「活字中毒~」という本「SF・ファンタジー」、「ミステリー」、「ラヴ・ロマンス(外国篇)」「ラヴ・ロマンス(日本篇)」と様々なジャンルにおいてそれぞれ各識者が50冊程選んだ本を紹介している。当然ぼくが熟読したのは「SF・ファンタジー」と「ミステリー」の項目で、それぞれ風間賢二と宮脇孝雄が担当、大変エキサイティングな紹介をされていた。でも、困ったのが当時でさえ紹介されている本に絶版本が多かったことだ。風間紹介本の中ではコジンスキー「異端の鳥」、フィニイ「ラーオ博士のサーカス」、ヴァンス「魔王子」、ホーバン「ボアズ=ヤキンのライオン」等がすでに入手困難だったし、宮脇紹介本の中ではミラー「狙った獣」、ディキンスン「キングとジョーカー」、ポーター「ドーヴァー④切断」、ブランド「緑は危険」などがそうだった。今ではこの中の何作かは重版なり再版なりして手に入り安い本もあるのだが、やはりサンリオSF文庫は、いまだに復刊されない作品が多い。だから、当時はお手上げ状態だったのだ。

 「活字中毒~」の一番頭に高橋源一郎浅田彰の対談が載っている。これが失われた文庫について縦横無尽に語っていてめっぽうおもしろいのだが、その中で高橋氏の奥さんが廃刊直後にサンリオのディック作品を求めて本屋を走り回ったが、一冊も手に入れることができなかったという話が出ていた。

 その後みなさんご存知のように、サンリオのディック作品はそのほとんどが他社によって復刊された。

 でも、それだけ人気のあるディックでも「時は乱れて」「銀河の壺直し」「最後から二番目の真実」はいまだに復刊されていない。

 逸れた話が長くなった。そこで本書である。本書もサンリオSF文庫の一冊として刊行され、いまだに復刊されていない作品である。復刊されないというのには一応理由があると思うのだが、いままで何冊かサンリオSF文庫を読んできてぼくなりに感じたのは、やっぱりサンリオSF文庫は変わった文庫だったんだなということだ。本書も然り。

 本書はミステリである。しかし英国、一筋縄ではいかないのだ。その体裁は、本格でもないしサスペンスに溢れた作品でもない。微妙なユーモアに彩られた、結末の残酷な作品だった。読了後、とても奇妙な余韻があった。全体に漂うノホホンとしたユーモアに浸っていると、最後に鼻面を思いっきり殴りつけられることになる。やはり英国、されど英国。一般受けする作品ではないと思う。アンチ・ヒーローである主人公の設定然り、事件の奇妙なねじれ具合然り、ラストの無慈悲さ然り。

 やっぱり、こういった作品はメジャーにはなれないんだろうな。いまだに復刊されないのもわかる気がする。風間氏の紹介で、本書を読みたいと強く思ったのに実際読んでみればこんなものなのだ。

 では、風間氏の紹介文がどんなものだったのか、ここで引用したいと思う。

 『最近読んだ逸品がこれ。正直に言えば、読み出したのは原稿締め切り前日のこと。あまりの面白さに本を閉じられずに、ついに締め切りに遅れる始末。ああ、どうして今まで誰もこの本のことを教えてくれなかったんだ!というのが読了後の正直な感想。ぼくは気前のいいほうだから、こうして隠さずに紹介してしまう。迷わずに読んでごらんなさい、身震いするほど残酷でスウィフトばりの機智が愉快なオカルトミステリーですよ』

 こんな紹介されたら、どうしても手に入れて読みたくなってもおかしくないでしょう?