読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ピーター・ワトスン「まやかしの風景画」

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 宝探しというのは、いくつになってもワクワクしてしまう。ポーの「黄金虫」、乱歩の「二銭銅貨」、インディ・ジョーンズもそうだし、いま話題の「ダ・ヴィンチ・コード」もある意味宝探しの物語だ。

 そんな連綿と続く『宝探し』小説の系譜に連なる傑作が本書「まやかしの風景画」なのである。

 本書はいたってシンプルなつくりになっている。言い換えればプロットが単純なので、読者としても物語に没頭しやすくなっている。わずらわしさから開放されて、自由に物語を楽しめるのである。

 宝探しの謎を解く鍵は《絵》。一枚の絵に隠されている多くの情報をどうやって導きだしていくのかが本書の読みどころなのだ。

 そこで注目したいのが図象学。絵に隠されている意味は直接多くを語らない。図象の意味や、中世に蔓延していた宗教的、神話的考えを解いていくのである。その過程はまさに良質のミステリの謎解きに匹敵する。一枚の絵にこれだけの情報が描かれているのか、と誰もが驚くことだろう。

 古来から宝捜しはロマンあふれる物語の要であって、これ以上にワクワクさせられる題材はちょっと思いつかない。それを作者は最良の形でわれわれに与えてくれたのである。

 さらに付け加えるならば、主人公であるイザベラとマイケルのロマンスにもワクワクするしイギリスの長閑な風景も旅情を誘い、忘れがたい印象を残す。断然オススメ。未読の方はぜひお読みください。

 この物語は必ずやあなたを虜にすることだろう。