読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ラリイ ・ワトスン 「追憶のスモールタウン」

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 過去の出来事を振り返る時、当人はもちろん成長しているわけだから当時の状況を第三者的な目で判断できるわけで、そうするとそこに事実を語る以上の様々な解釈がうまれる。当時の心情、そして今になって思う心情。リアルタイムでなく回想することによって物事を公平な判断で語りなおすのである。そういった点で本書「追憶のスモールタウン」はクックの「緋色の記憶」にも勝るとも劣らない作品に仕上がっている。

 当時12歳だった私。モンタナの小さな町で暮らす家族に起こった悲劇的な事件。高熱を出して、ある日突然死んでしまったインディアンの娘。少年と父親との関係。田舎の風土に根ざす様々な憶測。知りたくない人生の痛み。子を守ろうとする親と、家族の一員として自分を認めてもらいたい内向的な少年の心の葛藤がさりげなく、重くなくスッキリと描かれている。

 ほんとに薄い本なのだが、なかなか深い余韻を与えてくれた。ただ、やっぱり邦題がイケてないなぁ。これ現題は「Montana 1948」なんですよね。このままでもよかったんじゃないかと思うんだけど。