読書の愉楽

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リチャード・マシスン「奇術師の密室」

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 みなさんは「探偵スルース」や「デストラップ・死の罠」という映画をご存知だろうか?どちらも古い映画なので、もしかすると知らない人も多いかもしれない。「探偵スルース」は1973年、「デストラップ・死の罠」は1983年の作品である。もう、一昔前だ^^。

 ぼくも、これらの映画をリアルタイムで観たわけではない。レンタルビデオで借りてきて観たのである。

 「探偵スルース」も「デストラップ・死の罠」も舞台劇を映画化したもので、どちらもその特質がとてもよく似ている。登場人物は二人。舞台はほとんどが屋敷の中。そして、丁々発止の騙しあいと、二転三転するどんでん返し。もう、ミステリマインドをくすぐる興趣満点で、観てから十年以上たっているにもかかわらず、いまだにこれらの映画を超えるミステリ映画は観たことがないと断言できるくらい素晴らしい映画なのだ。

 で、話はやっと今夜の主役である「奇術師の密室」にバトンタッチすることになる^^。どうして、いきなり映画の話をはじめたかというと、本書がこの映画史に残る傑作ミステリ映画を模倣して書かれているからなのだ。本書の語り手は舞台で脱出マジックに失敗して植物人間になってしまった老マジシャン。

 彼は、目だけが動かせるという状態で車椅子に座らされている。彼がいるのはマジックの小道具が所狭しとならべられたギミック満載のマジックルーム。そしてここに登場するのが、植物人間になった父親の跡を継いで立派な2代目となった息子及びその妻、妻の弟、マネージャーの計4人。途中で加わる保安官を入れると計5人。登場人物はこれだけである。さらに付け加えるならば、舞台はマジック・ルームの中のみ。さて、いったいここで何が行われるのか?

 純粋に楽しめたといっていい。確執と疑念が渦巻き、短い章が終わるたびに驚かされ、上がったり下がったりの繰り返しに目が回りそうなくらいだった。マシスンの筆は時に悪ふざけが過ぎ、いささか過剰な演出となってる部分もあるのだが、それはご愛嬌^^。まさしく『してやったり』のオンパレードなのである。かの名作映画とくらべると見劣りするのは否めないが、いまの時代にこのオーソドックスな設定でこれだけ楽しませてくれたんだから、文句もいえないのである。

 ひとつ断っておくが、本書に本格のトリックを求めてはいけない。なにしろ舞台はマジック・ルームなのだ。ここには種も仕掛けもたんとある^^。マジシャン相手にまともに張り合おうなんて気で読んでいては、興が削がれるというものだ。ここはひとつ、受身になって大いに騙される快感に酔って欲しい。

 いやあマシスン御大いくつになるのか知らないのだがもうかなり高齢のはずなのにやってくれますねー。