10年以上前に早川のポケミス1600番突破記念として、幻の名作が二十点復刊されたのだが、その中の一冊が本書だった。他にもフェラーズ「間にあった殺人」、カー「毒のたわむれ」、ブレイク「証拠の問題」、ヘアー「ただひと突きの……」などが復刊されたのだが、本書以外で購入したのはクリスピン「消えた玩具屋」だけだった。
もう幻の名作といわれたら、いてもたってもいられない。それもぼくがミステリの神と崇めるブランドの作品なのだ。これはおもしろいに決まってるじゃないか。
で、購入してすぐに読んでしまった。
大満足だった。ブランドお得意の登場人物のみんなが犯行を認めるというファルス的状況が、本書では際立っている。めくらましがあまりにもうまいので、ぼくはあまたいるレッドへリングたちの中から真犯人を見つけることはできなかった。そして、最後の最後ラスト一行で明かされる手口の真相。
かつてクイーンの「フランス白粉の秘密」でラスト一行で犯人の名が明かされるという演出があったが、カタルシスでは本書の方が数段上。ためいきが出てしまった。
トリックとしては、ほんとに他愛もないものなのだ。しかしブランドの技巧が素晴らしいので大きなカタルシスが得られるのである。
残酷さとユーモアがブレンドされ、絶妙の味を出しているのも相変わらずだ。
やはりブランドはいい。「はなれわざ」「緑は危険」の超絶的な作品よりは落ちるかもしれないが、本書も素晴らしかった。