前回の「夜のフロスト」が刊行されたのが7年前。本書の原書が刊行されたのは13年前だ。ということは、「夜のフロスト」が翻訳刊行されたときには、もうすでに本国イギリスでは本書は刊行されていて、あまつさえ次のシリーズ5作目までもが書店に並んでいたのである。
どうしてこんなに待たされてしまうのか?そりゃあ諸事情があってのことだろうけど、ぼくみたいな気の長い人間ばかりじゃないから、あんまり待たされるとみんな愛想つかしちゃうよ。
とまあ、愚痴はこれくらいにして。あまりにも首を長くして待ちわびていたこの名物シリーズをようやく読むことができた。巻を重ねるごとに長くなっていたこのシリーズ、今回は上下二巻の900ページ強という怒涛の分量だ。だが、普通ならいささかうんざりしてしまうこの分厚さが、本シリーズに限ってはまったく苦にならない。というか、むしろ大歓迎なのだ。
久しぶりに会ったフロスト親父は相変わらずのお下劣ジョーク連発で、不評も中傷もなんのその、推理などという高尚な手段はそっちのけで直感のみを頼りに行動する姿はあぶなっかしくて仕方がない。史上最強ではないかと思えるワーカホリックぶりも健在で、いったい今がいつなのか時間が数珠つなぎになって節操ない。それほど懸命に事件を追うこの親父に付き従う部下たちも大変だと思うが、彼らのほとんどがフロストを慕っているのには、救われる。
そんな愛すべき彼らに降りかかる今回の事件は原題のとおり結構ハードで、幼児の死体発見に始まり、幼児誘拐事件、少女誘拐事件、母子殺人事件、それに付随して発見された腐乱死体となかなかヘヴィな内容だ。事件の真相にいたっても悲しく痛々しいものが多く、フロストがいるからなんなく読み通せるけど、この内容が他の作家の手にかかったら、悲惨このうえない話になっているのではないかと思われた。
まったくこのシリーズはいくら読んでも飽きることがない。毎回描かれることは同じモジュラー型の事件絵巻なのだが、フロストの魅力と作者ウィングフィールドの巧みな筆さばきでこの上ない至上の読み物となっている。まったく得がたいシリーズだ。だが、このシリーズ残すところあと二作となってしまった。
翻訳が出るのはいつになるのかわからないが、ぼくは、ずっとこのシリーズを読んでいくつもりである。
とりもなおさず、ウィングフィールドさんのご冥福をお祈りしてこの感想を終えたいと思う。合掌。