今年はブランドの生誕100周年なのだそうだ。
本書はそれを記念しての出版ということで、コックリル警部が登場する戯曲、短編、エッセイなどが収録されているファン待望の作品集ということになっている。だから、本書はブランドのファンが読んでこそ感慨深く楽しめる作品集なのかもしれない。なんて言っているぼくにしても、長編を4冊、短編集を1冊読んだだけのひょっこなのだが^^。
しかし、いまになってブランドの新刊が刊行されるとは思いもよらなかった。これはうれしいサプライズだ。先にも書いたとおり本書に収録されている作品群はブランド初心者に楽しめるものではない。
なぜなら、本格ミステリとしてのサプライズを期待するといささか肩透かしだからだ。トリックが楽しめる作品は雪上の足跡を扱った密室物の「屋根の上の男」のみである。だが、これにしたって「招かれざる客たちのビュッフェ」に収められてた綺羅星のごとき作品群と比べれば、どうしても見劣りしてしまう。戯曲である表題作の「ぶち猫」にしても、コックリル警部はいわゆる狂言回し的存在になってしまっていて本格パズラーというより心理サスペンスという感じの作品に仕上がっている。
だがやはりブランド、そんな小粒ちゃんの印象が強い作品ばかりなのにそこはミステリの女王としての貫禄が十二分に発揮されているといえるのである。騙しのテクニックに代表されるミスリードや伏線の妙、ファンとしてはやっぱりこの感覚がうれしい。本格物としてのカタストロフィには至らないかもしれないが、ブランドの作品が読めるということだけで納得してしまうのである。
ブランドの短編は雑誌に発表されて、まだ本になっていないものが多数ある。願わくば、どこかの出版社がこれらをまとめて一冊にしてくれないものだろうか。
とにかく、ブランドの新刊が出るとは思ってもいなかったので、それがうれしい。
ぼくもはやく残りの長編読まなきゃいけないな。