読書の愉楽

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ウィリアム・ディール「真実の行方」

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 この人は最初、冒険小説家としてわが国に紹介された。それらはすべて角川から出版されていた。

 それほどブレイクはしなかったが、玄人筋には割りと評判がよかったように記憶している。そんなディールがサイコサスペンスで一躍脚光を浴びたのが本書「真実の行方」である。

 本の表紙を見てもらえばわかるように、これは映画化作品の原作であり、実際観た方も多いかと思われる。あのエドワート・ノートン出世作となった映画だ。

 シカゴでカトリック大司教をしている男が、全身に78箇所もの刺し傷を負って殺害される。その場で血まみれの姿で発見された青年が容疑者として逮捕されるが、彼はその時の記憶をなくしており真相は定かでない。しかし、現場の状況はその青年エアロンが犯人であると指し示している。ここで登場するのが、無罪を勝ち得るためには手段を選ばない辣腕弁護士のマーティン・ヴェイル。いったいエアロンは本当に犯人なのか?天使のような美青年であり、司教を敬愛していた彼が本当にこんな残忍な犯行を起こしたのだろうか?エアロンの記憶をたどるうちに浮かび上がってくる驚愕の真実と?

 これはなかなかインパクトのある作品だった。法廷物としても読み応えがあり、主人公である弁護士ヴェイルの人物造形が秀逸で、奥の深い魅力的な男として描かれ印象に残った。脇を固める登場人物もそれぞれいい味を出しておりその中でも特筆すべきは美青年エアロンの造形で、この印象は強烈だった。

 何が真実で、何を信じればいいのか?善と悪をへだてる境界線が二転三転する真相に翻弄され、次第に浮かび上がってくる事件の構造が読む者の感情を激しく揺さぶる。これを読んだのはもう10年も前なのだが、当時ぼくはさほどサイコ物を読み慣れてなかったので本書から受けたインパクトはかなりのものだった。いまだに記憶に残り続ける悪夢のような印象だ。

 映画化作品も観たのだが、原作には敵わないもののあちらも大健闘しており、リチャード・ギア演ずるヴェイルとエドワード・ノートン演じるエアロンが強烈な個性を発揮して、かなりいい出来だったと記憶する。

 本書は三部作の第一作である。それも話が進むにつれて既成概念を覆されるような、かなり破天荒なストーリー展開になっていくようなのである。現在第二作の「邪悪の貌」までが邦訳されているが、第三作目が長らく邦訳されてないところをみると、評判は芳しくなかったのかな?ぼくも未読でなんともいえないが「邪悪の貌」はそのうち読むつもりである。少なくとも第一作である本書は傑作だ。ぼくはこういう少し毛色の変わったミステリが大好きなのである^^。