読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

プリーストリー「夜の来訪者」

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 普段一番縁遠い文庫が岩波文庫なのだが、2月の新聞広告を見ててとても気になったのが本書だった。

 『息もつかせぬ展開』『最後に用意された大どんでん返し』。なんですと!これはミステリなのですか? すごく煽ってくれるじゃないの。戯曲ということだけど、すごく気になるじゃないの。

 というわけで、読んでみた。そして驚いた。

 そう、すっごくおもしろかったのだ。戯曲なんて読んだの野田秀樹の「怪盗乱魔」以来ではないか?

 舞台はイギリス郊外の大きな家の食堂。主のバーリングは工場主としてかなりの成功をおさめ、二年前には市長にも就任していたし、現治安判事でもある。ようするに、いっぱしの人物なわけだ。食堂に会しているのは彼の妻シビルと婚約したばかりの娘シーラ、そしてその弟エリックとシーラの婚約者ジェラルドの五人。家族は今夜シーラの婚約祝いのパーティを開いていた。幸せで和気藹々とした雰囲気に包まれてみんなその時間を心から楽しんでいた。だがそこに訪れる一人の男、グール警部。彼はつい先ほど消毒薬を飲んで自殺を図った若い女性が死亡したのを確認したと告げる。そして、ここにいるみんながその女性に深い関わりをもってることを次々と暴いていくのだが・・・。

 各人がいったいどういう風にその女性と関わりあっていたのか?どうして、その女性は自殺するまで追いつめられたのか?驕り、虚栄、エゴ、疑心暗鬼、この動かぬ一部屋の舞台上で繰り広げられる警部と家族の駆引きはページを繰る手を止めさせない。読者は、あれよあれよという間にラストのどんでん返しへと導かれてしまう。う~ん、まいった。160ページしかない本書はいわば短編ほどの分量しかない。しかし、その中にギュッと凝縮されているものはかなり濃厚だ。

 侮ってはいけない。こういうところにお宝は潜んでいる。戯曲を好まないぼくでも、これだけおもしろく読めたのだから本書はかなり良質な本ではないだろうか。

 ちなみにこの作品はイギリスでは何度も上演され、日本でも上演され続けている作品なのだそうだ。

 過去には映画化もされたらしい。いやあ、知らなかったなぁ。是非一度、舞台を観てみたいものだ。