四歳のあどけない少女ルーシーが誘拐される。初の女性副牧師として順風満帆とはいわないまでも、ようやっと己の信じる道を歩みだしたサリーは娘の誘拐という現実に打ちのめされる。娘が誘拐されたのは、自分の都合で娘を子守に預けたからだと自らを攻め苛むサリー。刑事である夫のマイケルも他人が指揮する捜査にいてもたってもおられず不安定な精神状態の妻を顧みようとはしない。
一方、ルーシーを誘拐したエディは、エンジェルと名乗る女性と共同生活をおくる少しロリコン気味の内気な青年だ。彼はエンジェルに支配されている。その家でエンジェルは絶対の存在だった。二人は、いままでにも何人も女の子を誘拐していた。彼らの目的は何なのか?
物語はこのサリーとエディの視点を交互に配しながら進められていく。
サリーとマイケルとのぎくしゃくした夫婦関係。エディの生い立ち。これら物語のバックグラウンドともいうべき情報が無理なく描かれ、読者を渦中に引きずりこんでゆく。
この物語は作者アンドリュー・テイラーが三部作として描く『ロス・トリロジー』の第一作である。
このあと物語は過去に遡っていくという。本書に登場したいわくありげなサブキャラクターが第二作に引き継がれ、ここで語られなかった物語が語られていくのである。
本作単品での感想はといえば、誘拐をメインに据えた心理スリラーといったところだろうか。
レンデルを思わせるニューロティックな雰囲気が横溢し、軽快で精緻な筆勢はクイクイ読ませるのに重厚感を感じさせる。
というわけで、このシリーズ気に入ったのであとの二作も読んでいこうと思う。本作で宿題となっているエンジェルという謎の女の正体を筆頭に、まだ数々の未処理問題が残っている。さて、三作読んでみていったいこのサーガはどういった様相を呈するのだろうか。とても楽しみなところだ。