未読のブランド作品を横目にこの最後の作品だけは先に読んでしまった。なんか、変な感じである。
というわけでブランド最晩年の作品だそうで、これ書いたときはかなり高齢だったはずなのに、どうだろうこの完成度は。読者は開巻早々、作者の挑戦に直面することになる。登場人物である9人の名が書き連ねてあるのだが、そこに『以上の9人のなかに、殺人の被害者と犯人がいる。この殺人には共謀はないものとする』なんて言葉が書き添えてあるのである。
ミステリファンとしては、なんともうれしい演出ではないか。読み始める前からワクワクしてしまう。
そして本編。正直に感想を述べさせてもらうと、確かにいままで読んだ彼女の代表作にくらべて見劣りはするのだが、どうしてどうしてあのミステリ黄金期の約束事にのっとって進められていく快感は得がたいものがあった。物語の導入部などとてもありえない状況なのに、それが逆に読者の首根っこをがっちりつかまえてしまうのである。
主人公を含め登場人物みんながエキセントリックで、それが大挙してドタバタを繰り広げるさまはファースの味わい濃厚、それがどんどん話をこじれさせラストではどんでん返しの連続となる。
「緑は危険」や「疑惑の霧」を読んだときほどの衝撃はないにしても、ブランド健在と拍手したくなってしまった。
彼女はやはり素晴らしい。クイーンやカーとくらべても遜色ない数少ない作家だと思う。これまで「はなれわざ」、「ジュゼベルの死」、「緑は危険」、「疑惑の霧」、「招かれざる客たちのビュッフェ」と読んできたのだが、どれひとつとして満足のいかない作品はなかった。
異論はあるかと思われるが、個人的にはブランドはミステリの神様だと思っている。
クリスティよりセイヤーズよりやっぱりブランドが一番だと思うのである。
これって間違ってる?