ジェフリー・ディーヴァーを全然読んでなかったりする。あの超有名なリンカーン・ライムのシリーズも一冊も読んでない。というか、ディーヴァーに代表されるミステリーや所謂エンターティメント作品に関して、とんと疎くなってしまっている。だからマイクル・コナリーもハーラン・コーベンもイアン ランキンもピーター ロビンスン もリチャード・ノース パタースンもネルソン・デミルもまったく手をつけてないのだ。
でも、そんな中でも今回紹介する「静寂の叫び」だけは、読んだことがある(笑)。でもこの作品だけで他は一冊も読んでないのだ。
確かに本書はおもしろかった。ここに描かれる内容からいえば、おもしろかったといえば少々不謹慎かもしれないが、でもやっぱりおもしろく読んだ。聾学校の生徒と教師を乗せたスクールバスを襲撃して人質にとり廃墟となった食肉加工工場に立てこもる三人の脱獄囚とFBI危機管理チームの人質解放交渉担当者ポターとの一触即発のネゴシエイト劇。
ポターと脱獄囚との虚々実々の駆け引きは、およそストレートな展開ながらも犯人側のマニュアル通りではない反応に疑問をもちながら、言葉の端々やわずかなスキを狙って向こうの出方を推理する過程などがよく描かれとても興味深いし、ポター自身プロフェッショナルに徹しきれず、ことあるごとに人間的な弱みをみせ、内部と外部の圧力に邪魔されてあやうく窮地に立たされたりして、サスペンスを盛り上げる最上の形がここにあるといっても過言ではない出来栄えだった。
要するに、これぞページターナーといった感じの仕上がりなのだ。ラストも期待通りのどんでん返しがあり、あやうく御都合主義となるかと思いきや、それをうまく回避して納得のいく終わり方だったし、総合的には非常に高水準の仕上がりだったと思うのである。
だが、しかーーーし、読み終わってみれば『いい映画を観たなぁ』程度の感想しか持ちえないのだ。
でも、あまりに映像的な場面変換や、用意周到ともいえる人物の出し入れが鼻についた。もうそれだけで、本書はサスペンス劇場のようなお手軽なサスペンスドラマになってしまったのだ。だから、ぼくは本書を茶木則雄氏が力説するように『後世に読み継がれるであろう傑作』だとは決して思わないのである。でも、だからといって以後絶対ディーヴァーを読まないなんて誓ったりはしない。今後も折をみて読んでいく所存である。