読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ヘレン・マクロイ「幽霊の2/3」

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 この本を読むまでの道のりは長かった。復刊リクエストを呼びかけたこともあったなぁ。かといって、ヘレン・マクロイの熱烈なファンなのかと言われれば、すごすごと引き下がらねばならない。だって、彼女の本を読むのは本書が初めてなのだから^^。でも、なぜだか読んだこともないのに彼女の著書は見つけるたびに集めていた。「ひとりで歩く女」も「家蠅とカナリヤ」も「読後焼却のこと」もあるし、あの幻の「暗い鏡の中に」もネットで知り合った方に譲っていただいて、大事に保管してある。あとはここ何年かで刊行されたハードカバーを三冊集めれば、国内で刊行されているマクロイ作品はすべて掌中のものとなるのである。

 

 読みもせずによくそれだけ集められるなとあきれる方もおられるかと思うが、これは性分だから仕方がない^^。おのれの嗅覚のみを頼りに、おそらく気に入るだろうと見越して買っておくのだ。中には、この読みが大きく外れることもあるのだが、概ね当たるのである。

 

 で、本書「幽霊の2/3」なのだが、これはなかなか良かった。本格ミステリとしては、ちょっとメインのトリックが弱いのだが、それを補ってあまりある大きな謎があるから素晴らしい。どういうことかと説明すると、これから読む方の興を削ぐことになるので、詳しくは書けないのだが解説で杉江氏も言っておられるように本書の第七章のラストで探偵役のウィリング博士が発する問いかけで天地がひっくり返ることになるのだ。これは、すれっからしのミステリ読みでも少なからず驚くことだろう。なるほど、本書はそういう風に進んでいくのかと膝を叩くことになる。ここまで読んだ読者はメインの殺人トリックや、犯人は誰かなどというミステリよりここで提示される謎に大きく引きつけられることになるのだ。

 

 もうひとつ言及しておきたいのは、先ほどから殺人のトリックや犯人探しに重きをおくミステリではないと力説していると誤解されては困るのだが、本来のミステリとしてのその部分も素晴らしくスマートに展開されているのだ。それは、何気なく進行する話のところどころに無理なく隠されている伏線や、それを回収するウィリング博士の手際のよさにあらわれているといえるだろう。

 

 読み終えてみれば、小振りな印象を与えるミステリではあるが、なかなかどうして巧緻で企みに満ちた作品だといえるのではないだろうか。

 

 う~ん、また悩ましい作家に出会ってしまったぞ。