読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ヘレン・マクロイ「暗い鏡の中に」

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 マクロイの二冊目として本書を選んだ。こちらは早川文庫のマクロイ絶版本である。創元のマクロイ復刊の反響が良ければこちらも復刊されるんじゃないかと思うのだが、どうだろう。

 実をいえば、本書のことは随分以前から知っていた。1992年にカタログハウスから刊行された佐藤圭の「100冊の徹夜本 海外ミステリーの掘り出し物」という本で紹介されていたのが本書だったのだ。

 その本の中では『Ⅰ こんなに面白いのに、あんまり評判にならなかった40冊』、『Ⅱ これは評判をよぶぞと思ったら、案の定、評判をよんだ38冊』、『Ⅲ すでに名声を確立していたけれどついとり上げてしまった22冊』の三つの章に分けてオモシロ本が紹介されていて、「暗い鏡の中に」はその『Ⅰ』の一番最初で紹介されていたのである。で、その紹介がまたすんごく興味を惹くもので、こんな不可能犯罪をどう収拾するんだろう?とずっと気になっていたのである。

 というわけで本書なのだが、これが上記のとおりとびきりの不可能犯罪を描いているのである。

 開巻早々女教師であるフォスティナは全寮制の厳格な女学院の校長から解雇を言い渡される。どうやら、その理由は超自然的現象に端を発しているようなのだ。学園内で何人もの人が同時刻に異なった場所でフォスティナを目撃しているというのだ。そして気味悪がられた彼女は学園を追われる。とりもなおさずニューヨークのホテルに身を隠した彼女が学園内の唯一の友人であった同僚に電話してるその時、学園内で人が死ぬ。驚くことに、その現場ではまたフォスティナの姿が目撃されたのである。

 どうですか、この謎。まさにドッペルゲンガー物の王道をゆく設定だ。いったいこれをどう解決するのかと読んでるこちらがハラハラしてしまう。最後の最後まで、我々はこれがオカルトスリラーなのではないかと思ってしまうのである。まさかこんなに常軌を逸した事件が丸くおさまるわけはないと思うのだ。

 だが、それを我らがウィリング博士が見事に解決してしまうのである。だが、その後にひとひねりあるのが本書のミソ。こういう結末の付け方ではやはりカーの「火刑法廷」のほうに軍配があがってしまうのだが、本書もなかなかに思わせぶりなラストだった。肝心のミステリとしてのサプライズだが、これは小説ゆえに成立するトリックだといえる。そういった意味ではマクドナルドの「ウィチャリー家の女」やニーリィの「心引き裂かれて」と同列なのだ。

 というわけで本書は、意欲作なのは間違いない。これも復刊されることを願おう。

 とりもなおさず、アムチンさん、貴重な本を譲っていただいて本当にありがとうございました。もう、このブログも見ておられないと思いますが、長い間放置してあったことをお詫びいたします。読めてよかったです。