読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ロバート・エリス「ロミオ」

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「本が好き!」の献本である。

 

 ちょっとまって、みなさん。この表紙を見て、ダメだこりゃと思ったあなたも、ちょっと待っていただきたい。この、いかにもロマンスミステリっぽい表紙は、ここにこられるすれっからしのミステリマニアの方々には、まず手にとる気のおこらないものであるのは重々承知。ぼくも、どうして本書の表紙をこんな感じにしちゃったのだろうと頭を悩ませた。

 

 しかし、本書は表紙のみで判断してスルーしてしまうのが惜しい出来栄えのミステリなのである。

 

 本書で描かれるのは連続暴行殺人鬼と女性刑事の攻防である。ロス市警強盗殺人課に配属になって間もないリーナ・ギャンブルが見たのは血しぶきにまみれた部屋の中に横たわる白い清潔なベッドカバーに包まれた小さな死体。その若い女性はレジ袋を頭にかぶせられ、身体中に痣ができ、槍で突かれたのかと見まがうほどの無残な刺し傷が腹部にあった。そして、奇妙なのは左足の人差し指が切りとられていることだった。

 

 しかし本書は猟奇的な部分ばかりが強調された凡百のサイコミステリでもないし、二時間ドラマ的なサスペンスミステリでもない。刑事たちの地道な捜査が描かれ堅実な印象を与えるし、バックグラウンドとしての物語のふくらませ方も堂に入ったものだった。文庫本のページ数にして570ページという長丁場を飽きさせることなくクイクイ読ませるのだから、なかなかのものである。また、警察内部での上層部と現場との軋轢や科学捜査の実情などが詳しく描かれており、いまのアメリカ警察の抱える数々の問題が織り込まれた内容に感心した。

 

 もうひとつ付け加えておきたいのが、ラストにひかえるどんでん返しだ。情けないことながら、これにはまったく気がつかなかった。そういわれれば、伏線はしっかり張られていたのである。この作者、ほんとうにしたたかだ。

 

 なにはともあれ、久しぶりにアメリカ産の現代警察小説を読んだのだが、これはよかった。来年にはリーナ・ギャンブルを主人公にした第二弾が刊行されるらしい。また彼女に会えるのを楽しみにしていよう。