読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

夢のこと

ファンガスとの旅

ファンガスが言うには『夜が静かなのは、神が便所に行ってるからだ』ということらしい。 そんなこと言ってると、どこかから洩れて万にひとつでも魔耶王の耳でも入ったなら首が飛んでしまうぞと脅したって聞きやしない。あの殺戮王が無神論者だってことぐらい…

固ゆで卵の夜

路地裏は、意外と清潔だった。大抵こういう場所は病原菌の温床のようなジメジメして臭い場所というイ メージがあるが、ここは乾いていて臭いもなくとても快適だった。私はさっきから、垂れおちてくる鼻水 を懸命に手の甲でこすりとっているところだ。なぜだ…

わたしの能力

きっと昨日は機嫌が悪かったんだと思い、もう一度あらためて出直してきたら、その場所はクレーターになっていた。ぼくが嫌な思いをしたから、こういう結果をまねいてしまったのだろうか? クレーターの底は、はるか彼方であって目視では確認できないくらい深…

妻帰る。

妻が戦争から帰ってくるというので、今日は朝からお出迎えのパーティーの飾りつけをしている。子どもたちも大はしゃぎだ。そりゃそうだろう、だってもう二年半も会ってないのだから。 そうこうしてるうちに表で車がとまる気配がしたので窓から覗いてみると、…

赤ん坊を喰う猫

妻が買い物に行っている間、生まれたばかりの娘の面倒をみることになった。赤ちゃんの扱いに慣れてい ないので正直不安だったのだが、これも一つの試練だと思って気持ちよく妻を見送った。 赤ちゃんという生き物は、人間であって人間でない生き物だ。人間と…

箱の中

窮屈な、と思ったら、どうやらぼくは裁縫箱に入っているらしい。 手足も動かせず、やたらと身体中のあちこちがどこかに触れている。しかも、自分の手足がいったいどういう状態なのか皆目見当がつかない。伸ばしているのか、縮めた状態なのか、真っ暗で目も見…

ベックの悪夢世界

名前をよばれて返事をしたら、夜になった。振り向いた先には、泣いてる子どもがいた。 ぼくは左手を強く握りしめて、手のひらに食い込んだ爪が痛くて涙を流していた。 ゆっくりと子どもが近づいてくる。大きく口を開けて、両手で目を覆って、まるでマンガに…

対面幽霊

その幽霊が近づいてきたとき、カシューナッツの香りがした。幽霊は、未練がましい目でぼくを見据えて こう言った。 「友人に去られて三十年。竹が伸びたら、もう三十年。あわせて六十、あとは野となれ山となれ」 わけがわからない。まったく理解不能だ。だか…

盲目の男に追いかけられて

目の見えない男に追いかけられている。全速力で逃げているのに、相手はまるで見えているかのように追 いかけてくる。狭い路地を右に左に曲がり、高い塀を飛び越えたりして障害をはさんでいるにも関わらず 奴はその都度障害をくぐりぬけぼくの背後にぴったり…

象と洞窟と女と男

王冠をつけた象は、ヘリンボーンの柄だった。黄色い空に架かる大きな橋は、まるで地球を制圧する巨大 宇宙船のようで、正直ぼくは怖かった。目の前にやってきた象は、器用に片目を瞑ってウィンクしながら 鼻先を丸めてぼくの足元に差し出した。 「これに乗れ…

太陽戦

信号待ちしてると夜が黒いミルクのように溶けだして、怒りに身を任せた太陽がグングン伸び上がってきた。ブンブン手を振り回してナリフリ構わぬ怒りよう。見ていて身の危険を感じるほどだったが、太陽が身につけている大きなヘッドフォンからもれ聞こえるビ…

優子ちゃん

ベランダで洗濯物を干していると、突風が吹いて持っていたTシャツが飛んでいってしまった。まだ水に濡れて重たいTシャツは、いきおいよく落下していく。目で追うおれは気もそぞろ。なぜなら、3時に優子ちゃんがウチにくることになっているからだ。 なにし…

マジックマン

不惑を過ぎた頃から、山味東五郎は左足に違和感を覚えるようになった。 歩いているときに、踵のあたりに鈍痛を感じるのである。しかし、それは常時ではなく、どうしたはずみか決まって首を右に曲げた拍子になるのである。まさか首と左足の踵が連動しているな…

引き出しを開けると虫がいた。それも見たことのない虫だった。ぽってり膨らんだ茶色い腹は、フイゴの ように激しく伸縮し、透明な羽の下にみえる胸部は茶色い毛に覆われ、禍々しい雰囲気を強調している。 表情のない硬質な目は黒く鈍く光っており、まるでこ…

インスマウスのダゴンおっさん

「おひょんなことになりましたな」 見知らぬおっさんは、何気なく声をかけてきた。 おひょん?聞き間違いか?いや、このおっさんは確かに『おひょん』と言ったぞ。 「えと、すいません。なんておっしゃいました?かき氷の音がうるさくて、聞き取れなかったん…

記憶の襞

凪の辻に向かって記憶を辿ってきた道は、曖昧さと困惑を微妙にブレンドした重石を心にのせて歩く苦難 の道だった。踏みしめる道の表面は粗く割られた土器の破片が敷きつめられている。炎天下の暑気にやら れて隣りを歩くオッチも今にも倒れそうだ。 少し先に…

コイティーヴ

天井から落ちてきた顔は、大きな口の中でなにかをバリバリ噛み砕いていた。 夢ゆえ、決して驚かないぼくは平然とその様子を眺めていたが、なにを食べているのかが非常に気になっ て訊ねてみた。すると大顔は、口をモゴモゴさせながら 「これは、コイティーヴ…

空飛ぶ二人

チュエッチ・スタイルの彼女が飛んだ。大きく弧を描いて、高く足を跳ね上げながら。 追いかけるぼくは自慢の翼でかっこよく飛んだつもりが、目測を誤ったらしく彼女のずっと後方になって しまった。空は青く、光があふれ、頬にあたる冷気をふくんだ風が気持…

「白い物体」

深夜に自転車に乗って堤防をスイスイと飛ばしていたら、月明かりに映える川面になんだかわけのわから ないものが浮いていた。 その川は水深50センチくらいの浅い川で流れもなく、普段からゴミが堆積しているようなドブ川だった ので、白いゴミ袋か何かなん…

家族団欒

家族の顔がみんな違うのに、ぼくはそんなこと気にせずに談笑している。 妻は、会ったことも見たこともない40代の小奇麗な女性。眼鏡をかけている。 長女は、どこかで見たことがあるのに思い出せない。笑顔が可愛い子だ。朗らかでやさしい感じがする。 長男…

宙に浮く娘

娘の身体が宙に浮くようになってしまった。原因は皆目わからない。どこに相談すればいいのか散々悩ん だ挙句、NASAに問い合わせてみた。 「お忙しいところすいません。ちょっと相談したいことがありまして」 「はい、なんでしょうか?」 「えーっと、あ…

西部ペニス

テレビを観ていたら「西部ペニス」というお笑いコンビが出てきた。 よくこんなコンビ名つけたなと驚くが、妻も子供たちもまったく気にしてない様子。 ぼくだけが過剰に反応しているのはなんだか癪にさわるので、ぼくも気にしてない風を装う。 「西部ペニス」…

先輩刑事と後輩刑事

「これは殺人事件だね」 「はあ」 「はあって君!なんだその間の抜けた返事は!」 「いえ、でも警部これほんとに殺しですかね?」 「なんだ、これが殺人じゃないって言うのか君は」 「だって、普通の首吊り死体ですよ。どうしてこれが殺しなんですか?」 「…

森の奥の草庵

その草庵は、森を抜けた小川の近くにあった。長い距離を歩いてきたぼくは、ノドがカラカラだったので 一杯の水をもとめて、入り口の引き戸を叩いた。 しかし中に人のいる気配はなかった。しばらく待ってまた戸を叩いてみたがやはり出てくる人はいない。 試し…

嘘をあやつる少女

嘘をあやつる少女が男を殺した。男は天に目を向け、法悦の表情でこの世を去った。 その後少女は南に向かい、道端にいた野良犬を蹴り殺し絶頂に達した。 少女の行方は知れない。あとには男と犬の骸のみ。 ぼくはその光景を目の当たりにし戦慄と恐怖を味わった…

ガダルカナル・タカとの一夜

はやく行かなきゃ、授業に遅れる。ぼくは急いでいるので普段はつかわないエスカレーターに乗る。 エスカレーターは建物の真ん中に位置し、ちょうど吹き抜けの中を昇る形で配置されている。 いつもは階段で昇り降りしているので、エスカレーターにのると景色…

麒麟児

「私の父は、昭和十年に奈良の西大寺に生まれました。父が生まれたとき、空の一角に垂直に昇る巨大な雲が見えたので、名前を龍雲と名づけられたそうです。この名前は、父を一生苦しめることになるのですが、その当時は麒麟児じゃ麒麟児じゃといって、みんな…

大洋潜行

黒蓉船は異様に大きい帆を張り出して、通常の三倍の速度で海原を南下していた。群れの中でもかなりの 泳ぎ手で名の通っているぼくでさえ追いつけないほどの速さだ。 なにをそんなに急いでいるのだろう? いつもなら寄り道してても、ゆっくり追いつけるくらい…

消えるメロディ

ある日、突然この世のものとは思われない素晴らしいメロディを思いついた。 ぼくはその素晴らしいメロディを忘れないうちに書きとめておこうと思った。 五線譜にゆっくり確実にメロディをおとしてゆく。音楽に詳しいわけではないので、もしかしたら正確で は…

広い座敷

戸を開けると、そこは50畳はありそうな大きな座敷だった。こんなに広い部屋は見たことがなかったので、度肝を抜かれて敷居もまたがずにたちつくしていると 「ささ、どうぞ遠慮なくお入りください」と傍らにいる人が手を差し出した。 呆然としたままそちら…