ベランダで洗濯物を干していると、突風が吹いて持っていたTシャツが飛んでいってしまった。まだ水に濡れて重たいTシャツは、いきおいよく落下していく。目で追うおれは気もそぞろ。なぜなら、3時に優子ちゃんがウチにくることになっているからだ。
なにしろ、あの優子ちゃんがウチに来るんだぜ。どうするよ、おれ。もしかして、緊張して変なことしちゃったらどうしよう?そんでもって、それが原因で嫌われたらどうしよう?そんなことになったら、おれ立ち直れないよ。どうするよ、おれ。いったい今何時なんだ?え!もう2時じゃん!あと60分で優子ちゃんが来ちゃうじゃん。まだ、部屋の片付けも済んでないし、ファブリーズも買ってきてないじゃん!
おっと、いけねぇ。Tシャツどこいった?
え?え?ウソ!隣りの家のアンテナに引っかかってるじゃん!あんなの、どうやって取るんだよ。
ええーーー!!!あれに見えるは、優子ちゃんじゃないかい?風にヒラヒラはためいているTシャツの向こうに見えるのは優子ちゃんだ。間違いない。でも、どうしてこんなにはやく来ちゃったんだろ?まだ、2時過ぎなのに、おかしいな?
ていうか、あのスカートおかしくね?前はすごいミニなのに、後ろは足首まであるじゃん。ハリウッド女優じゃあるまし、なんであんな凄いの着てるの?
でも、テンション上がるよな。優子ちゃんが来るんだもん!それにあんなスカートじゃ、おれ、どうなっちゃうか、わかんないよ、もう!
あ!
Tシャツ、また飛んだ!
優子ちゃん目がけて飛んだ!
え?え?
着た?
優子ちゃん着ちゃった?
おれのTシャツ着ちゃったよ、どうしよ。
ていうか、なに、これ?
なんで着ちゃうの?おかしいでしょ?優子ちゃん、それ濡れてんだよ。
あ、だめだ!いま道路渡っちゃだめだよ優子ちゃん!後ろからジープが来てる!
あ!優子ちゃん!ああああ!あああああああ!
思わず目隠ししちゃったけど、どうなった?優子ちゃん、どうなった?
あれ、ジープ止まってるよ。フロントガラス割れてるじゃん!
前の道路に血。かなりな量の血。
優子ちゃんは?優子ちゃん、どうなったの?
え?
血の跡が点々と続いて、このマンションの入り口まで?
優子ちゃん、どうしちゃったんだよ。怪我してるの?あんなにいっぱい血が出たら、死んじゃうんじゃないの?
なのに、優子ちゃん、ウチに来ちゃったの?
血まみれで?
ピーンポーン!