目の見えない男に追いかけられている。全速力で逃げているのに、相手はまるで見えているかのように追
いかけてくる。狭い路地を右に左に曲がり、高い塀を飛び越えたりして障害をはさんでいるにも関わらず
奴はその都度障害をくぐりぬけぼくの背後にぴったりついてくる。
なぜだ?なぜなんだ?目が見えてないのにどうしてこんなにぴったりついてこれるんだ?
もう息があがってしまう。もう限界だ。どうすればいいんだ?
なけなしの勇気を振りしぼって、もう一度振り返ってみる。
見なければよかった。
なぜならば、奴は犬のように走っていたからだ。四足で、大きく開けた口からヨダレまみれの長い舌を垂
らして、長い髪を振り乱し気が狂ったようにめちゃくちゃに追いかけてきてる。
一気に気力が萎えた。死が目の前にぶら下がった瞬間だ。
足がもつれる。
だめだ!もう、だめだ。奴に食い殺されてしまう。
そう思った瞬間落ちた。
どこへ?
ふくよかな女性の腕の中に。
素敵な匂いに包まれて、地獄が天国に変わった。
ぼくは女性に抱かれて、小さく丸くなる。
彼女はぼくを抱いて、ぼくを抱いて、ぼくを抱いて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・走ってる?
どうして?
なぜ走ってる?
見上げると、女性の顔が汗まみれだ。
そして、女性の肩越しに後ろを振り返ると、狂ったように追いかけてくる奴がそこにいた。