引き出しを開けると虫がいた。それも見たことのない虫だった。ぽってり膨らんだ茶色い腹は、フイゴの
ように激しく伸縮し、透明な羽の下にみえる胸部は茶色い毛に覆われ、禍々しい雰囲気を強調している。
表情のない硬質な目は黒く鈍く光っており、まるでこちらを見上げているようだ。六つの脚は、異様に
長く、特に前脚の二本は他の脚より長く、見ようによってはカマキリのカマのように見えなくもない。
そして驚くのは、その大きさである。モルモットぐらいの大きさだ。これはちょっと手で触ろうという気
になれない。それにしても、これは何だろう?セミか?基本形はセミのようなのだが、少し違う要素も入
ってるな。特に前脚の攻撃的な感じは、セミにはないものだ。
どうしよう?こんな大きな虫。気持ち悪いな。
そう思って顔を上げて、ギョッとする。
なぜなら、前に座っている近藤の背中にこの異様な虫が五匹もとまっていたからだ。まったく動く気配は
ないが、腹だけが激しく伸縮を繰り返している。
おいおいおいおい、どうすんだよ、これ。
凄まじい恐怖が、沸き起こる。恐る恐る見回すと、まわりの同級生のそこかしこにも、この異様な虫がは
りついてるではないか。
えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!侵略だ!これは侵略だ!異様な虫の侵略だ!
頭の中では派手にサイレンが鳴っているのに、身体が動こうとしない。
怖い。怖いよ。かあちゃん、おれ、すごく怖いよー。
虫は動かない。みんなも動かない。おれはいったいどうすればいいんだよーーーーー。