読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

森の奥の草庵

その草庵は、森を抜けた小川の近くにあった。長い距離を歩いてきたぼくは、ノドがカラカラだったので

一杯の水をもとめて、入り口の引き戸を叩いた。

しかし中に人のいる気配はなかった。しばらく待ってまた戸を叩いてみたがやはり出てくる人はいない。

試しに引き戸を開けてみると簡単に開くので、悪いなと思いながらも中に入ってみる。

陽光まぶしい外界から薄暗い屋内に入ったぼくの目は一瞬何も見えない状態になったが、やがて目が慣れ

てくると、そのあまりにも粗末な佇まいに驚いた。これでは、まるで日本昔ばなしの世界だ。

入ったところは文字通りの土間で奥までしめ固められた土のままで右手に竈、左手には上がり框があり奥

の板の間に続いている。板の間の部屋は吹き抜けになっていて真ん中には囲炉裏が鎮座し、上を見上げれ

ば煤で汚れた大きな梁が縦横に組み合わされている。

思わずため息が出た。

竈の近くには枯れた木の枝が藁で束ねられ、それが何束か積み上げられており、丁度ぼくの真正面の壁際

に大きな甕が置いてあった。甕には木の蓋がしてあり、その上に柄杓が一つのっている。

たぶん、あの中には水が入っているのだろう。時代劇などで見たことがある。

ノドの乾きが癒される快感に負けて、ぼくは無断で水をいただくことにした。

誰もいないと思っていても、自然身のこなしは盗っ人然としてくるから不思議だ。ぼくはソロリソロリと

甕に近づいていった。

柄杓を手に取り木の蓋を持ち上げると、やはり甕の中には水があった。暗くてよくわからないが、水に間

違いないだろう。ぼくは音をたてないようにゆっくり柄杓で中の水をすくった。

高鳴る期待に胸躍らせ、柄杓に口をつけると一気にのみほす。

ん?

おかしい。

味が変だ。

これは水じゃない。

水にしては、いやにしつこく舌にまとわりついてくる。飲み下した感触も、どことなく重たい。

呑み込んだものの胃の中に留まって、シコリのように居座ってしまった。

なんなんだ、これは?

しばらくすると、胃が熱くなってきた。それに伴い全身から汗が噴出してくる。

いったいぼくは何を飲んでしまったのだろう?

歯が痛くなってきた。

頭の後ろも痛い。

身体が浮いてくる。まるで雲の上を歩いているような・・・。

そこで、もう一度甕の中をのぞいてみた。いったいこの液体は何なのか?

暗い甕の中を凝視していると、甕の底に何か黒い影が見えてきた。

さらに顔を近づけて見てみる。

カエルだった。

濃い緑色した大きなカエル。甕の底に沈んで、うすく口を開きユラユラと何かを吐き出している。

おえええ。

飲んじゃった。変なもの飲んじゃった。おかしい。身体の具合がおかしい。いったいぼくはどうなってし

まうのだろう。このまま気を失うのか?そして死んでしまうのだろうか?

おえええ。

どうなる?いったいどうなるの?