読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

宙に浮く娘

娘の身体が宙に浮くようになってしまった。原因は皆目わからない。どこに相談すればいいのか散々悩ん

だ挙句、NASAに問い合わせてみた。

「お忙しいところすいません。ちょっと相談したいことがありまして」

「はい、なんでしょうか?」

「えーっと、あのですね、私には小学6年の娘がおりまして」

「はい」

「最近少し生意気になってきて、いっぱしの口を利くようになってきたんですが、その子が一昨日くらい

から宙に浮くようになってしまったんです」

「は?どういうことですか?宙に浮くって、文字通りの意味ですか?」

「はい、そうなんです。丁度20センチくらいですかね。身体が浮いていて、地に足がついてないんで

す」

「ええ!!それは大変なことですよ、ご主人!」

「はい、ですから散々悩んでおたくのところに連絡させてもらったわけでして」

「それはどうも。しかし奇妙ですね。そういう例はいままで聞いたことがありません」

「はい、わたしもです。自然発火したとか、聖痕があらわれたとか、宇宙人に連れ去られたとか、世界に

は奇妙なことがいっぱいあったようですが、身体が浮くって話はわたしも聞いたことがないもんで」

「たしかに。こちらでも、原因を究明したいので是非娘さんを精査させてください」

「でも、それってひどい事したりとかないですか?痛いとか苦しいとか」

「いえ、それは細心の注意をはらって行いますので、どうかご心配なく」

「わかりました。では全面的に信頼します。おたくで調査していただけますか」

「それでは、これからの日程を取り決めていきたいと思います。メモのご用意を」

メモを探すが、どこにもない。

ペンも見つからない。

娘は浮いたまま、眠っている。まっすぐ横たわった状態で、丁度20センチ浮き上がっている。まるでエ

クソシストの一場面だ。

そう思った瞬間ひらめいた。

「すいません、気がかわりました」

「はい?」

「あの、おたくに調べていただく前に一件あたってみたいところがあるので、少し待ってもらえます

か?」

「え?どういうことですか?どこへ連絡されるんですか?わたしどもは細心の注意をはらって娘さんを」

相手が話してるのも構わず電話を切ったぼくは、電話番号案内に急いでつないだ。

「あの、ローマ教皇の自宅の番号ってわかりますか?」

ほどなく番号が案内され、ぼくはそれを記憶し、急いでかけた。

「はいベネディクト3世の自宅でございます」

「あのー、すいません。いきなり電話しまして。わたくし日本に在住しております、しがないサラリーマ

ンなのですが」

「ただいま教皇は訪米中でございまして、不在となっております。ご用の方はピーっという発信音のあと

にご用件をお入れください」

「・・・・・」

電話を切り、ため息をついた。ぼくは留守番電話が大嫌いなのだ。無音の相手に一生懸命しゃべっている

自分の姿が我慢ならないのだ。

娘は浮いている。フワフワと浮いている。いったいどういうことなのだろう?ホバリングしてる娘を横目

にやっぱりNASAに連絡つけようかと思い悩んでいたところ、息子が部屋に飛び込んできた。

「ねえねえ、お父さん!ぼく、消えることができるようになったよ!ほら見て!」

そう言うと息子は消えてしまった。

ぼくは、頭を抱えた。また悩みが増えてしまった。