読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「白い物体」

深夜に自転車に乗って堤防をスイスイと飛ばしていたら、月明かりに映える川面になんだかわけのわから

ないものが浮いていた。

その川は水深50センチくらいの浅い川で流れもなく、普段からゴミが堆積しているようなドブ川だった

ので、白いゴミ袋か何かなんだろうなと何気なく見ていたら、どうも様子がおかしい。

どうみても、その白い物体自体がモコモコ動いているのだ。

不意をつかれたように感じて、ぼくは自転車を止めた。いくら川の中だといっても、あんなに上下に激し

く動くはずはない。あれは生き物なのだろうか?大きさからいって、ちょうど子牛くらい。

向う岸に近いところで、モコモコモコモコ激しく動いている。

まるでモスラの幼虫そっくりじゃないか。まさか、そんなことないよな。じゃあ、いったい何なんだ?

シロクマ?いやいやいやいや、そんなのいるわけない。

気になるのなら近寄って確かめればすむことなのだが、生憎ぼくは家族という重い荷物を背負ってる。軽

はずみな行動で勇気を安売りできる身分ではないのだ。

もしかしたらとんでもない生き物で、近寄ったが最後いきなり襲われることがあるかもしれない。こうい

うパターンは、ホラー映画の定番だ。好奇心に殺されるのだ。そんな目にあった日には、悔やんでも悔や

みきれないではないか。

しかし、気になる。あの白い物体の動きはまったく終息する気配がない。むしろ、だんだん激しさが増し

てきてないか?

知りたいけど、怖い。怖いけど、諦めきれない。

おさまりのつかないジレンマの中で、ぼくはいまにも尿が漏れそうな焦燥感を味わっていた。

すると、その時、向う岸に別の動きがあった。

白い物体に近寄ってくる人影。どうやら男らしい。何か長い棒のようなものを持って、物体に近づいてい

る。いったいどうしようというのか?あの男は、勇気を安売りして身の破滅を招くのだろうか?

それとも、それは杞憂にすぎず未知なる発見をして栄誉を手にするのだろうか?

ぼくは固唾を呑んで見守った。

あと少し。もう少しで男が伸ばした棒の先が物体に触れる。もうちょっと、もうちょっと。

ぼくはギュッと手を握って見つめていた。