チュエッチ・スタイルの彼女が飛んだ。大きく弧を描いて、高く足を跳ね上げながら。
追いかけるぼくは自慢の翼でかっこよく飛んだつもりが、目測を誤ったらしく彼女のずっと後方になって
しまった。空は青く、光があふれ、頬にあたる冷気をふくんだ風が気持ちいい。
彼女には追いつけないが、そんなことは些細なことだ。いまはただ風に乗って飛ぶ快感を楽しむのみだ。
小さな点になってしまった彼女は、クルクル旋回しながら飛んでいる。クルクル、クルクルおもしろいよ
うに回っている。クルクル、クルクル、あんなに回ったら目がまわるんじゃないかと心配しだしたところ
で気がついた。違う!彼女は失速してるんだ。旋回してるんじゃなくて、落ちてるんだ。
ぼくはあわてて加速した。自慢の翼を気流にのせて、彼女を追いかけた。
落ちてゆく彼女は、落下の衝撃で肘の関節が外れたらしく、右手がありえない方向に曲がっている。
ぼくは身体を直線にして、速度を上げて斜めに彼女に突っ込んでいった。
落下する物体と空中で接触するにはコツがいる。ぼくは、彼女を腕に抱く直前に翼をたたみ落下した。
腕の中の彼女は目を閉じて気を失っているようだったが、ぼくに抱かれると安心したらしく口だけを動か
して、こう言った。
「ありがとう」