読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

家族団欒

家族の顔がみんな違うのに、ぼくはそんなこと気にせずに談笑している。

妻は、会ったことも見たこともない40代の小奇麗な女性。眼鏡をかけている。

長女は、どこかで見たことがあるのに思い出せない。笑顔が可愛い子だ。朗らかでやさしい感じがする。

長男は、小学校時代の同級生によく似ている。放課後よく一緒に遊んでいたやつだ。

次女は、どうやら赤ちゃんだったころのぼくだ。性別は違うが白黒写真で見たぼくの赤ん坊時代そのまま

だ。

そして不思議なことに、実際にはいないはずの家族がもう一人いた。でも、夢の中のぼくはそのことに違

和感をもっていない。そいつは妙に懐かしい雰囲気をまとっており、彼に目を向けるだけでぼくの胸の中

は郷愁に似たせつなさでいっぱいになる。そう、今『彼』と表記したとおり、そいつは男だ。

でも外人なのだ。アングロサクソンなのは間違いない。やわらかそうな金髪に、青い目、涼しげな目元が

ハンサムな青年だ。でも、そいつの役割がわからない。弟なのか従兄弟なのか親戚の子なのか、いったい

どういう関係なのかが判然としない。

でも、ぼくはそんなこと気にもとめずに談笑している。みんなと大いに笑い、大いに食べてる。

そう、いまは食事中なのだ。真っ赤で脂っこいスープがグツグツと煮えたぎっている鍋をみんなで囲んで

楽しくワイワイやっているのだ。鍋からでる湯気で妻の眼鏡がくもって真っ白だ。部屋の中も異様にあつ

い。みんな額から流れ落ちる汗もそのままに、楽しく食事をしている。

「十二月に雪が降るなんて」長女が言い、みんなが笑う。

「開国記念日には、落とし前つけないとね」妻が言い、みんなが笑う。

赤ん坊は、一時間ほど前からずっとスルメをガジガジしがんでいる。

「ゆうちゃんが足の骨折っちゃって」長男が言い、みんなが笑う。

ぼくは鍋の具をつまもうとして箸を落としてしまう。

「十月には雪は降らなかったね」長女が言い、みんなが笑う。

「学校でガラスの象を作った」長男が言い、みんなが笑う。

ぼくは、たいして可笑しくないのに一緒に笑う。アングロサクソンも、笑ってる。

鍋にお酒を入れる。

箸が煮える。

湯気が立ち昇る。

みんなが笑う。

赤ん坊はスルメを齧っている。