読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

わたしの能力

きっと昨日は機嫌が悪かったんだと思い、もう一度あらためて出直してきたら、その場所はクレーターに

なっていた。ぼくが嫌な思いをしたから、こういう結果をまねいてしまったのだろうか?

クレーターの底は、はるか彼方であって目視では確認できないくらい深い。何が落ちたのかは謎だが、と

ても巨大な力が働いたのは間違いない。その瞬間の爆風を感じて、卒倒しそうになった。

しかし、こういうことばかり起こっては、おちおち人に悪感情を持つこともできないではないか。いった

いどうしたらいいんだろう?聖人君子になれというわけか。いやいやそれは無理、ぜったい無理。ぼくな

んて煩悩の塊だし、性格もまっすぐじゃないしなんていったって俗世の垢にまみれてしまっているもの。

それにしても深い穴だな。あのおじさんどうなっちゃったんだろう?おそらく跡形もなくふっとんじゃっ

たんだろうな。昨日はあんな言われ方したから、あのおじさんのことを憎く思ったけど、こうなってしま

えば憎んでしまったことを後悔してしまう。

去年救急車で連れていかれたおじいさんも、おんなじ状況だったんだよなぁ。ぼくが憎く思って、次の日

におじいさんは帰らぬ人になっちゃったんだ。これじゃまるでぼくの頭の中で完結するデス・ノートでは

ないか。とにかく帰ろう。こうなってしまっては、もう取り引きどころではないではない。社長になんて

言ったらいいんだろうかと思いながら引き返そうとすると、クレーターの淵に緑の虫が蠢いているのが目

の隅に映った。よく見てみるとカマキリである。どうもオスとメスが交尾しているみたいだ。大きなメス

の背中に小さいオスが乗っかって丁度メスがオスをおんぶしている格好だ。めずらしいものを見たなと思

い、さらに注視しようと顔を近づけると嫌なものまで見てしまった。二匹の繋がっている部分を通って、

ハリガネムシが行き来していたのだ。ぼくは、このハリガネムシにトラウマといってもいい嫌な思い出が

あって、虫唾が走るくらいこの寄生虫が嫌いなのである。こんな能力があるから、普通なら見なくていい

ものまで見えてしまう。なんて因果なことなんだ。

頭の中にエルトン・ジョンの「ダニエル」が流れてきた。この曲が聴こえだすと、鼻の奥がきな臭くなっ

て身体が浮いたような感覚にとらわれる。誰かの意識とシンクロし、世界が反転する。位置感覚が消失

し、身体が消えてしまう。自分の意識と他人の意識が反発し、溶解し、分離する。

ぼくは鼻から血を流しながら、ブエノスアイレスに飛んだ。