読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

夢のこと

テルジの幽霊

ナッチとスグルがスカートめくりをして先生に怒られた日、ぼくの親友のテルジが車に轢かれて死んだ。 ぼくはそれを母ちゃんの悲鳴で知った。もう少しで食べてたトンカツを喉に詰まらせるところだった。 母ちゃんは電話を切ると、涙を溜めた目でぼくをみてテ…

北の所領

窓の近くを通ったとき、ツグミの激しい鳴き声が聞こえたので、思わず立ち止まって外を覗いた。 二羽のツグミがウバメガシの梢のまわりで激しく飛び交っていた。どうやら、巣を狙う外敵から卵を守ろうとしているらしい。 その必死な姿を眺めていると、アラン…

ハイル、総統、ぼくたちに愛の手を!

フフフと笑った顔は不敵そのもの。緑色の光の中でその顔は醜くゆがんで見えた。 ぼくは驚いて思わず帽子をかぶりなおした。 「ハインリッヒ、それはきみの本心なのか?」 問いかけるぼくを無視して、ハインリッヒは前に向きなおり颯爽と馬をすすめた。シュヴ…

帝雲との会話

修行に出てから六日目のことだった。いつものごとく片腕のサージメント・スポイルを調整していた帝雲が何気なく言った一言におれはおもわずふかしていた萬キセルを取り落としそうになった。 なんだって?お前、それ本当か?」 ブラスドライブを全開にして回…

「首長姫」

首長姫はしずしずと音もなく歩いた。朝ぼらけの研ぎ澄まされた空気が頬をピンと張りつめさせる。 庭のイタドリについた朝露の雫がきらきらと光っていたが、そこに巣をはった女郎蜘蛛が禍々しい気を周囲に発散しており、上向きだった気分がそれを見た瞬間一気…

黒と白のシーソー

黒いビュー・マスターは大きくステップを踏んでジェロニモの側らに降り立つと少しよろけて微笑んだ。 ぼくは青白い顔で怯えていた。どうして自分の顔色がわかるのかというと、第三者の目でその場を俯瞰しているからだ。これぞ夢の不思議、ザッツ・エンターテ…

ロンドンの『あの人』

夜の団地を見上げると、すべての階のベランダから白い顔が覗いていたなんていう総毛立つような夢をみたあと場面が変わって黄昏のロンドンにぼくはいた。そこは、ぼくが想像するロンドンであって、実際のロンドンではない。だからそこにはビックベンもパディ…

牝鹿の死

眠りから覚めると、ぼくは死にかけている牝鹿に寄り添っていた。お互い下半身を湖に浸けた状態で横た わっており、静かな木漏れ陽がぼくたちに降りそそいでいた。ぼくは少し身を起こし、あらためて鹿の大 きな身体を見渡した。強い毛が手のひらにざらつき、…

そこにいるもの。

午後十時に叔母が倒れたとの連絡が入り、急遽病院に向かう。家にはなぜか誰もいないので、ぼく一人で出かけることにする。外はそぼ降る雨。駐車場がすぐ近くにあるので、傘をもたずにマンションを出た。 夜の底が赤くなり、霧のような冷たい雨が顔にかかる。…

黒塚

その朽ち果てた小屋は、峠を越えた街道筋に岩に張りつく蟹のような恰好で建っていた。昼日中の陽光にてらされてさえ陰の中に沈みこんだような印象をあたえるその小屋には梅干の種のような婆が一人住んでいた。ガリガリに痩せてあばら骨が浮き出ている貧弱な…

霧の中

ようやく追いついたのだが、肩に手をかけたぼくを振り返ったのは見知らぬ女の人だった。てっきり妻だ と思っていたのに、いったいこれはどういうことだ?しかも、その女の人は顔の造作が常人離れしていて 目、鼻、口が顔の中央に寄せ集められていたので、目…

アリと重力

幼い男の子がしゃがみこんで一心不乱に地面を見つめている。興味をそそられたぼくは、引き寄せられるようにそこに近づき、男の子が見つめているものが何なのか確かめた。 アリだ。そこそこ大きいアリが縦列で行進している。毎度おなじみの光景だ。ぼくも幼い…

「血の雨」

赤いものがムショウに食べたくなってしまった。だからとりあえずリンゴを20個食べる。しかし、まだ 物足りない。トマトが真っ赤だからトマトを食べればいいと思ったが、生憎ぼくは生のトマトが大嫌いな のだ。だから、ケチャップを食べることにする。皿に…

インフェルノ

人を殴ったら射精するという夢を二、三回繰り返してみたあと、場面が変わって定着した。 おそらくそこは大都市なのだろうが、いままでみたこともないような建物が乱立する異様な都市だった。 視界は琥珀色のフィルターを通して見るような感じで、常時たそが…

掌編三編。

歩いていると、妙に目が回る。クラクラクラクラ足が地につかない感じで、気持ちが悪い。 ええい、クソ!何なんだ、このおぼつかない感じは! 頭を振るが、酩酊感にさらに拍車がかかってしまい、とうとう膝をついてしまう。 ううう。なんかムカムカしてきたぞ…

「白髪薔薇、眼鏡ひまわり、脂アサガオ」

前に並んだ三人の男は、みな表情がなかった。しかし呆けているわけではなく目線には力があり、この場 がとんでもなく重要な場なんだということはヒシヒシと感じられた。 ぼくは、圧倒されながらも慎重に三人の前に進みでた。 「5番、○○です」 大きな声で名…

地下街の放火魔

250ccのバイクに乗って地下街に下りてゆく。階段を下りきったところで放火魔に遭遇。相手はオードリーの春日じゃないほうにソックリな奴だ。放火魔は右手に100円ライターを持ち、左手にジッポー・オイルの缶を持って、ぼくに火をつけようとしてくる。…

「死ニカタ」

先生は言った。「あなたたちも、一生懸命なさい」 ぼくたちは戸惑った。なぜなら、先生が何を強要しているのかがわからなかったからだ。でも、聞きなおすような雰囲気じゃなかった。先生の耳から湯気が出てるってことは、かなりヒート・アップしてる証拠だも…

厭な夢

昨日と同じだ。あいつが出てきて、ニヤッと笑うところまで一緒だ。 ぼくは、また最初に戻って同じ道を歩きはじめる。ゆっくりとだが、確実に。しかし、歩みは遅い。不思 議と前に進まない。これが夢のもどかしさ。いくらがんばっても無理なのである。 奇妙な…

『クラチカート』

毎月11日にクラチカートという魔物がやってきて、誰かが生贄にされてしまうという無慈悲な世界。 ぼくは毎月いつ自分の番がくるのかと、びくびくしながら暮らしている。 クラチカートとは『煉獄の蜘蛛』という物騒な異名がつけられているとんでもない化物…

サマー・ブリーズ

サマー・ブリーズは音の矢。鼓膜を突きぬけ、脳に突き刺さる。 ぼくは水パイプから得体の知れない煙を吸いながら、隣に侍らせたとびきりの美女の胸を弄んでいる。 気持ちはとてもハイ。こんなに素敵な気分になったことはない。 いきなり冷たい爪が手の甲に食…

「悪魔のような夕方」

悪魔のような夕方だった。 ぼくは大きな饅頭をほおばりながら、堤防の道を太陽に向かって歩いていた。 見下ろすと緩やかに流れる金色の川がまぶしくて、一瞬目が眩んだ。ふたたび焦点が合うと、ぼくはマイ キート・ハスパーンの探偵事務所にいた。ハスパーン…

頭を食べる話。

仕事場の先輩と一緒に大学の食堂で食事をしている。奢ってやるからなんでも食えといわれて、ぼくは人 肉料理を注文する。以前にも人肉料理は食べたことがあって、その時は頭だけ食べたのだが、脳みその旨 さが格別だったので、また食べてみようと思ったのだ…

シフト人生

他人の人生を体験するというのは得がたい体験であり、それが良いものであれ悪いものであれ、また元のぼくの人生に帰ってくることが保証されているのなら、お金を払ってでも一度体験したいものであると常々考えていた。それがどうだ、ほんとに夢に見ちゃった…

教室と地獄

「耳カキでこそげ落とすような感じで発音してください」 そんなこと言われても、それがどういう感じなのかがわからない。っていうか、わかる人いる? すると、隣に座っていた若い女の子が大きな声で文例を読み上げた。 それは、まさしく『耳カキでこそげ落と…

青い黄昏

青い夕方が神秘を誘う午後七時。ぼくは鼻唄をうたいながら、せせこましい町中をくねくね歩いていた。 目的地がどこかはわかっているのだが、その場所の名前がわからない。頭の中に建物の形は浮かんでいるしそこへの道順も知悉している。でも、そこがいったい…

彼我の境

グッコーの右上には、さなぎ谷。 ゆわえ岩にキランバ亭と見物が続く。ぼくは忙しく左右を見ながら、気もそぞろ。 昨日は諦観滝でうなだれて、牛毒の混じった雨に打たれて夜は寝込んだ。 やいのやいのと袖をひっぱるのは、まだ目も見えない小鬼たち。大きく開…

「五右衛門忍法帖」

山田風太郎の霊がぼくに乗り移る。 まるで自動筆記のように新しい忍法帖がぼくの持つペンから生まれる。ぼくはそれを書きながら、同時に読んで歓喜に震える。数ある忍法帖の中でこの作品が最高傑作になるのは間違いないと確信する。 それを自分で書いている…

「連続殺人鬼の世界」

容疑者の住いは、狭い裏通りに面した二階建ての細長い家だった。呼び鈴を鳴らしても返事があるわけでなく、家の中は静まりかえっていた。ぼくは殊更強くドアを叩いて、声を張り上げた。 「北村!いるのか!警察だ!いるのなら、ドアを開けて出てこい!」 だ…

『ハラゲメシ』

『ハラゲメシ』を食いに行こうと友人に誘われて、レンタカーを借りて一緒に出かけることになった。しかし、いったい『ハラゲメシ』って何なのかがわからない。友人に聞いても、まあいいからと言ってまともに取り合ってくれない。しかたなくぼくは友人の運転…