読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

アンソロジー

大森望 責任編集「NOVA+屍者たちの帝国」

伊藤計劃が逝去して、彼の残した数少ない作品群は、ほぼ伝説の域にまで達した感がある。後続の作家のみならず、ベテランの作家も含めて彼が与えた影響は計り知れない。また、彼の絶筆を円城塔が書き継いで完成させた「屍者の帝国」は、SFというジャンルを…

朝松健 えとう乱星編「伝奇城」

『伝奇』という言葉には、ロマンがある。今の時代にあって、『伝奇』が脚光を浴びることはまずないだろうが、それでも『伝奇』には物語の真髄を世に流布してきたという確かな実績があり、それが積み重ねてきた連綿と続く歴史は、それ自体がすでに『伝奇』と…

荒俣宏 編纂 「怪奇文学大山脈 Ⅰ」西洋近代名作選【19世紀再興篇】

本アンソロジーは、あの碩学、荒俣宏氏が蒐集した海外の怪奇文学をそれぞれテーマ別に三巻に分けて紹介する西洋近代怪奇小説の集大成である。『19世紀再興篇』と名付けられた本書には14篇が収録されている。 まず驚くのは、いまさらなのだがやはり荒俣氏…

米澤穂信 編「世界堂書店」

あの米澤穂信がこんなにいろんな国の小説を読んでいる人だったということに驚いた。だいたいミステリ作家といえば、英米のミステリ作品に傾倒しているのが相場というものだろう。しかし本書に収録されている15編のうち、純粋にミステリとよべる作品は2作…

柴田元幸 編訳「燃える天使」

ジョン・マクガハン、パトリック・マグラア、マーク・ヘルプリン、スチュアート・ダイペック、ピーター・ケアリーなどなど翻訳好きにはよく知っている作家も収録されていて、なかなか楽しめる。 内容的には、それぞれまったく独立したテーマの作品が収録され…

夏目漱石他「もっと厭な物語」

やはり出ました「厭な物語」の第二弾。前回のアンソロジーがかなり好評だったってことだねこれは。 ちょうど一年ぶり?今回は国内の作家も混じっての厭な物語。ラインナップは以下のとおり。 『夢十夜』より 第三夜 夏目漱石 私の仕事の邪魔をする隣人たちに…

デイヴィッド・J・スカウ編「シルヴァー・スクリーム(上下)」

これ本国で刊行されたのが1988年だって。いくらなんでも翻訳出るの遅すぎでしょ。ま、それはともかくそんな昔に編まれたアンソロジーにも関わらず、本書はかなり読み応えのある刺激的な作品揃いだからうれしくなってしまう。多くの作品の中から幾つかピ…

中村融、山岸真編 「20世紀SF② 1950年代 初めの終り」

このアンソロジー・シリーズが河出文庫から刊行されて、もう10年以上が経つんだね。英米のSFを年代別に選りすぐって全6巻。本巻は第2巻で1950年代を代表する黄金の14編が収録されている。 タイトルは以下のとおり。 「初めの終わり」 レイ・ブラ…

マリオ・バルガス=リョサ他「ラテンアメリカ五人集」

本書で紹介されている作家の中にはノーベル文学賞を受賞した作家が三人もいる。すごいね、ラテンアメリカって。しかし、ぼくが本書の中で一番素晴らしいと思ったのは、ノーベルじゃなくてセルバンテス賞を受賞しているパチェーコ「砂漠の戦い」なのだ。これ…

西崎憲 編訳「短篇小説日和 英国異色傑作選」

本書には20もの短篇が収録されている。さすが西崎憲、ディープなセレクトに唸ってしまう。恥ずかしながら、ぼくはここに紹介されている作家の半分以上は未知だった。こういうアンソロジーの愉しみはそういった未知の作家の作品に出会えるところで、こうや…

アガサ・クリスティー他「厭な物語」

よくぞ刊行してくれました。こういうテーマのアンソロジーだったら、もっともっと読んでみたい。これパート2、3もアリでしょ。実のところ翻訳小説好きにしたら、これだけ収録されていてこの薄さってのはあり得ない。でも、翻訳ミステリー大賞シンジケート…

グリーンバーグ&ウォー編「シャーロック・ホームズの新冒険(下)」

住みなれた家のようでもあり、懐かしい故郷のようでもあるホームズの世界にようこそ。 わくわくする以上にホッとするあの世界。肩をたたいて、またきたよって挨拶するような気軽な世界。 では新冒険、下巻の寸評いってみよう。 「ワトスン博士夫妻の家庭生活…

グリーンバーグ&ウォー編「シャーロック・ホームズの新冒険(上)」

安心してしまうのだ。ホームズがいるだけですんなりと物語の中に入ってゆける。どうして、こんなにまで親しみを感じてしまうのだろうか。これからも、こういうパロディは数多く書かれるのだろうが、大いに歓迎したい。 本書は、そういう数あるホームズのパロ…

北村薫・宮部みゆき編「名短篇ほりだしもの」

このアンソロジーシリーズは一応本書で終わりなのだが、四冊目ともなるとやはり弾切れになってしまうのか、本書に収録してある作品は印象に残らないものが多かった。収録作は以下のとおり。 【第一部】 「だめに向かって」 宮沢章夫 「探さないでください」 …

東雅夫編「文豪怪談傑作選 特別篇 文藝怪談実話」

ちくま文庫のこの文豪怪談傑作選は一冊で一人の作家が描く怪談話を特集していて、まことに魅力的なシリーズなのだが、あいにくぼくは一冊も読んでいない。こういう怪談話はやはりアンソロジーのほうに惹かれるのだ。本書にはタイトルからもわかるように近代…

岸本佐和子 編訳「居心地の悪い部屋」

タイトルからもわかるとおり不穏な雰囲気をまとった作品ばかりのアンソロジーということだが、読了してみればさほどでもなかった。居心地の悪い作品といえば、やはり一番に思いつくのがディーノ・ブッツァーティであり、独断で言わせてもらえば彼の右に出る…

北村薫・宮部みゆき編「とっておき名短篇」

「名短篇、ここにあり」「名短篇、さらにあり」に続く、北村薫と宮部みゆき選のアンソロジー第三弾なのである。次に「名短篇ほりだしもの」がきて合計四冊のアンソロジーが刊行されたことになる。アンソロジー好きには、なんとも堪えられない名作揃いのアン…

ジェフリー・ディヴァー他、エド・マクベイン編「十の罪業 BLACK」

「十の罪業」としてBLACK、REDの二冊が刊行されている。編者は大ベテランのエド・マクベインであり、彼自身の87分署シリーズの一編も収録されている。今回読んだのはBLACKの巻で、ここに収録されているのは以下の作品。 ジェフリー・ディーヴ…

文藝春秋編 「奇妙なはなし アンソロジー人間の情景6」

ぼくの好きなアンソロジーなのである。この文春文庫から出てる【人間の情景】というアンソロジーシリーズは文藝春秋七十周年記念出版として八冊刊行されていて、本書はその六番目。「奇妙なはなし」って、いかにもミステリ好きが喜びそうなアンソロジーでし…

ジャック・フィニイ、ロバート・F・ヤング他 中村融編「時の娘 ロマンティック時間SF傑作選」

本書に収録されてる短編は先日読んだ大森望編「ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選」 と同じ時間SF物ばかりなのだが、副題が『ロマンティック時間SF傑作選』となっているようにタイムトラベル絡みのロマンスを描いている作品が多く収…

大森望 編「NOVA 2 書き下ろし日本SFコレクション」

昨年刊行された大森望編の国内SFアンソロジーの中で一番気になったのが本書。本書には12人の作家の作品が収録されている。タイトルは以下のとおり。 「かくも無数の悲鳴」 神林長平 「レンズマンの子供」 小路幸也 「バベルの牢獄」 法月綸太郎 「夕暮に…

大森望編「ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選」

早川のSFマガジン創刊50周年記念アンソロジー第二弾。 第一弾「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」はあまりそそられなかったので未読なのだが、本書は時間SFテーマの逸品が並んでいるということで、なんとも我慢できずに読んでしまいました。 本書には十…

山本一力・児玉清・縄田一男「人生を変えた時代小説傑作選」

さすが小説の読み巧者の三人が選んだだけのことはある。一編を読むごとに強くそう思った。本書には各人二編づつ、それぞれの人生の転機や浮沈の中で強く印象に残った時代短編小説が選出されている。収録作は以下のとおり。菊池寛「入れ札」(山本一力・選)…

小川洋子編著「小川洋子の偏愛短篇箱」

恥ずかしながら、小川洋子の本は一冊も読んだことがない。なぜだか読みそびれたまま、いままできてしまった。「ホテル・アイリス」「まぶた」「薬指の標本」などを買ってあるのだが、読めてないのだ。 にもかかわらず、こんな本を読んでしまった。なぜなら、…

絵本・新編グリム童話選」

いまさらなのだが、グリムなのである。どうしてこの本を読む気になったのかは説明しなくてもわかるでしょ?だって、表紙の写真見てもらえれば一目瞭然なんだもの^^。 というわけで本書には11編の作品が収録されている。「ブレーメンの音楽隊」 高村薫「…

柴田元幸編「昨日のように遠い日」

副題に『少女少年小説選』とあるが、読んでみた限りジュヴナイル小説選というスタンスではなくて、少女や少年が登場する小説のアンソロジーという感じで、おおまかにいって、大人の読み物となっている。 なお、収録されているのは13編。 ・「大洋」 バリー…

角川書店編「ドッペルゲンガー奇譚集―死を招く影」

ドッペルゲンガーといえば、自分の分身を自分もしくは他人が見てしまうという現象だ。昔から、自分自身を見てしまった人には死が訪れるといわれているが、本書ではこの現象を題材にした短編が10編収録されている。このテーマは古今東西の作家を刺激する恰…

夢枕獏 他「てめえらそこをどきやがれ!」

ようやく、このめずらしい本を読んだ。刊行されたのは、もう二十年も前なのだ。かなり古いな。 ところで、ここに収録されている作品は夢枕獏以外はこの本でしか読めないんじゃないだろうか?よくわからないが、ぼくが知ってるかぎりではそのはずである。夢枕…

北村薫・宮部みゆき編「名短篇、さらにあり」

やはり読んでしまった。 本書に収録されている作家陣は、前回の「名短篇、ここにあり」に収録されていた作家陣より、さらに年代が遡る。そして、一人も読んだことがない。 収録作は以下のとおり。「華燭」舟橋聖一「出口入口」永井龍男「骨」林芙美子「雲の…

北村薫・宮部みゆき編「名短篇、ここにあり」

この二人のタッグでは、以前「謎のギャラリー」シリーズでなんとも歯痒い思いをしたことがある。どういうことかというと、北村薫が選出したそれぞれの短篇について二人で対談しているのだが、その悉くがなんともピント外れで共感できないものだったのだ。ど…