読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

大森望 編「NOVA 2 書き下ろし日本SFコレクション」

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昨年刊行された大森望編の国内SFアンソロジーの中で一番気になったのが本書。本書には12人の作家

の作品が収録されている。タイトルは以下のとおり。


「かくも無数の悲鳴」 神林長平

レンズマンの子供」 小路幸也

「バベルの牢獄」 法月綸太郎

「夕暮にゆうくりなき声満ちて風」 倉田タカシ

「東京の日記」 恩田陸

「てのひら宇宙譚」 田辺青蛙

「衝突」 曽根圭介

クリュセの魚」 東浩紀


「五色の舟」 津原泰水

「聖痕」 宮部みゆき

「行列-プロセツション」 西崎憲


本書の中で一番期待していたのが宮部みゆき「聖痕」だ。彼女のSFとしては「龍は眠る」や「蒲生邸事

件」、「鳩笛草」なんかを読んできたが、この「聖痕」は犯罪を犯した少年Aを描いているということ

で、それがどうやってSFに結びつくんだろう?と興味津々だったのだ。本アンソロジーの中で最長の1

50枚という中編サイズのこの作品、確かにラスト20ページで驚愕の展開になる。このテーマを正面切

って描いてしまう力量に脱帽だ。こんなこと宮部みゆきしか無理なんじゃないか?凡百の才能では決して

成立しない作品だ。

東浩紀クリュセの魚」は堂々たるSFであり、ボーイ・ミーツ・ガールの青春物の甘酸っぱさと感傷も

あわせもっている好編。テラフォーミングされた火星が舞台であり、数々のアイディアがあざとくなく非

常に調和した形で物語に溶け込んでいるところも魅力だ。本作は長編として構想された作品の序章にあた

る部分だそうで、これはかなり期待できます。

法月綸太郎「バベルの牢獄」は小粒ながら、ラストのトリックが明かされた段階で誰もが再びページをめ

くり直すことになる驚愕の脱獄小説。これは小説という媒体でしか成立しないという意味で、かなり高度

でもあり考えようによっては究極のバカミスになるかも知れない。まあ、読んで驚いて下さい。

本書には字組みの変わった作品が二つあって、一つは倉田タカシの「夕暮にゆうくりなき声満ちて風」で

あり、これはページを開いた途端誰もが『なんじゃ、こりゃ!」と叫んでしまうこと必須の怪作であり、

正直ぼくは読み通せなかった。こういう作品を楽しむ根気がなくなってしまっているのである。もう一作

恩田陸「東京の日記」。これは外国の女性が東京での滞在日記を綴っているという体裁なのだが、なん

とも不穏な雰囲気が横溢してておもしろい。キャタピラー伝書鳩戒厳令、テロといったワードがポツ

ポツ出てきて不安をあおる。いいね、こういうの。

津原泰水「五色の舟」は津原版「件(くだん)」の物語。異形を愛す著者ならではの、完熟フリーク小説

だ。時代と不幸と熱気と幻想が混濁した退廃と耽美の物語。一読忘れがたい印象を残す。

西崎憲「行列」はショートショートほどの作品だが、このイメージは素晴らしい。空を東から西に横切っ

てゆく行列を詩的に描くこの作品は、次々と現れるイメージの鮮烈さのみで勝負する快作だ。

というわけで本書の中で強烈に印象に残ったのは以上の6編。といって、他の作品がおもしろくないとい

うわけではないので、あしからず。

現在このシリーズは三冊刊行されていて、まだまだ続けて出るようなので、興味のある巻はどんどん読ん

でいこうと思う。アンソロジーはやはり楽しいなぁ。