ジョン・マクガハン、パトリック・マグラア、マーク・ヘルプリン、スチュアート・ダイペック、ピーター・ケアリーなどなど翻訳好きにはよく知っている作家も収録されていて、なかなか楽しめる。
内容的には、それぞれまったく独立したテーマの作品が収録されており変化にとんでいておもしろい。
収録作は以下のとおり。
「僕の恋、僕の傘」 ジョン・マクガハン
「床屋の話」 V・S・プリチェット
「愛の跡」 フィリップ・マッキャン
「ブロードムアの少年時代」 パトリック・マグラア
「世の習い」 ヴァレリー・マーティン
「ケイティの話 一九五○年十月」 シェイマス・ディーン
「太平洋の岸辺で」 マーク・ヘルプリン
「猫女」 スチュアート・ダイペック
「メリーゴーラウンド」 ジャック・プラスキー
「影製造産業に関する報告」 ピーター・ケアリー
「亀の悲しみ アキレスの回想録」 ジョン・フラー
「燃える天使 謎めいた目」 モアシル・スクリアル
「サンタクロース殺人犯」 スペンサー・ホルト
まず注目したいのは「愛の跡」。レズビアンの女性とホームレスの少年の交流を描いているのだが、所々の描写がすごく新鮮で驚いた。答えの出ない彷徨と触発の狂気がもどかしくも印象深い。
「世の習い」は、けっこう技巧的な作品。汽車の旅で出会う少女と疲れた様子の女性。彼女と私。しかし、明確だった関係は主格を取り換え少女の性の解放をともなうイニシエーションを経て、現実に引き戻される。
「ケイティの話~」はアイルランドの怪奇譚。以前から感じていたことだが、アイルランドの話ってなぜか日本の風土になじんだ懐かしさがあるんだよね。ここで語られる話は、恐ろしくはないがかなり不気味な話。この「ケイティの話」も入っている連作短編集「闇の中で」が晶文社から出てるそうなので、こんど読んでみようと思う。
「太平洋の岸辺」は、最近「ウィンターズ・テイル」が復刊されたヘルプリンの作品。本題の前にちょっとだけ余談だが、この「ウィンターズ・テイル」はほんと必読のアメリカ文学なので、これを機会にぜひ未読の方は読んでいただきたいと思う。素晴らしい読書体験となるだろう。で、この短編なのだが、先の大戦が舞台となっている。夫を兵役にとられ軍需工場で働くポーレットが主人公。愛し合う二人をつなぐ手紙のやりとり。ラストの一行が胸に突き刺さる。
「猫女」は、非常に短い作品ながら、なんとも奇妙で魅力的だ。特異な事実とそれをとりまく普通の人々。挿話としての完成度が素晴らしい。
「メリーゴーラウンド」も短くて単純な話なのだが、メリーゴーラウンドの加速と同様に加速してゆく話の疾走感がおもしろい。何が彼をそうさせたのか?不可解さの中に漂うユーモアが忘れがたい。
「サンタクロース殺人犯」は、タイトルのとおりサンタを殺してゆく犯人の話。そうすることによって世界がどうなったのかが話の焦点。そして、最後にタイトルの真実が思わぬサプライズとなってあらわれる。
以上、特に印象深かった作品に言及してみた。でも、その他の作品もつまらないわけではないのでご安心を。