住みなれた家のようでもあり、懐かしい故郷のようでもあるホームズの世界にようこそ。
わくわくする以上にホッとするあの世界。肩をたたいて、またきたよって挨拶するような気軽な世界。
では新冒険、下巻の寸評いってみよう。
「ワトスン博士夫妻の家庭生活」 ローレン・D・エスルマン
とても短い作品だが、なかなかチャーミングで楽しい。これからはじまる冒険の幕開けとしては期待度充分、高まるいっぽうである。
「二人の従僕」 マイクル・ギルバート
非常にシンプルな作品。ドイルが書いていたとしてもおかしくない作品。でも、ドイルが書いていればもう少しロマンス色が濃くなったことだろう。ホームズのシリーズの魅力はこのロマンス色によるところが大きいね。
「シャーロック・ホームズとマフィン」 ドロシイ・B・ヒューズ
これもストイックなくらいシンプル。そんな中にも活動的な要素もふくまれていたりして、聖典とすごくダブった。
「奇妙なコンピューター」 ピーター・ラヴゼイ
おまたせラブゼイの登場である。この作品は本巻の中の目玉の一つ。芸達者な彼のことだからさぞかしクセのある作品だろうと思ったが、予想は的中まったく楽しい話だった。だってこの話の舞台は現代なのだ。じゃあ、ホームズは?さて、ラヴゼイはどういうふうにホームズ譚を料理したのでしょう。
「しつこい狙撃者」 リリアン・デ・ラ・トーレ
ネタはすぐにばれたが、おもしろかった。ホームズが科学的な探偵だったという事実を強調した作品で、著者のホームズへの入れ込みようがよくあらわれた作品だ。
「ジャックが建てた家」 エドワード・ウェレン
本巻の中では一番の異色作。とても刺激を受けた。ここで描かれるのはホームズの頭の中。タイトルからも察せられるようにそこにマザーグースが絡んでくる。ちょっと、取っつきにくい感じを受けるかもしれないが、これは傑作です。
「ワトスン、事件を解決す」 スティーヴン・キング
これもこの巻の目玉。事件自体は聖典にも何回か登場したタイプの話なのだが、ここではタイトルにあるとおりワトソンが事件を解決してしまうのである。ホームズが脇にまわってしまうという皮肉な展開にキングの冴えをみた。
「あとがき―モリアーティと犯罪社会の実態」 ジョン・ガードナー
これは直接ホームズとは関係ないのだが、ヴィクトリア時代のロンドンの暗黒面をさらっと紹介している好文である。当時のロンドンがどれだけの犯罪社会だったのかがよくわかる。なかなかに切迫したコワイ時代だったんだね。
というわけで、ホームズの新冒険譚これにて閉幕です。
絶版ですが、見かけられた折にはどうか手にとってみてください。