副題に『少女少年小説選』とあるが、読んでみた限りジュヴナイル小説選というスタンスではなくて、少女や少年が登場する小説のアンソロジーという感じで、おおまかにいって、大人の読み物となっている。
なお、収録されているのは13編。
・「大洋」 バリー・ユアグロー
・「ホルボーン亭」 アルトゥーロ・ヴィヴァンテ
・「灯台」 〃
・「トルボチュキン教授」 ダニイル・ハムルス
・「アマデイ・ファラドン」 〃
・「うそつき」 〃
・「おとぎ話」 〃
・「ある男の子に尋ねました」 〃
・「猫と鼠」 スティーヴン・ミルハウザー
・「修道者」 マリリン・マクラフリン
・「パン」 レベッカ・ブラウン
・「島」 アレクサンダル・ヘモン
・「謎」 ウォルター・デ・ラ・メア
おそらく、これを読まれているみなさんもそうだと思うが、この中で知ってる作家は四人のみ。あとの四人はまったく未知の作家である。こういうアンソロジーの意義はこういうところにある。新しい作家を紹介してくれて、柴田さんどうもありがとうってなもんである。この未知の作家の中で気に入ったのは、拒食症の少女がアイルランドの祖母の家に身を寄せて、自我を確立させて再生していく「修道者」とボスニア生まれの少年がアドリア海にうかぶムリェト島で過ごす日々を描いた「島」が強く印象に残った。特に「島」は少年が伯父から聞くアルハンゲリスクの収容所の話が強烈で、後々尾をひく。
既知の作家ではミルハウザーの「猫と鼠」が、あのトムとジェリーの世界をそのまま短編に仕立てあげて秀逸だし、ブラウンの「パン」は女学校の寄宿舎を舞台にカリスマとしての信望を集める女学生を芯に据えた、ちょっとレズビアンの匂いのする硬質な作品だった。以前から感じてたのだが、ブラウンの作品にはコレットの冷たく静謐な世界と同類の印象を受けるのだが、どうだろうか。デ・ラ・メアの「謎」は、幻想小説版「そして誰もいなくなった」であり、夢と現の境界をさまよい、本当なら不可解で怖い話が不思議と心落ち着く話になっているところが素晴らしい。
というわけで、小品ばかりなのだが、新しい発見もありけっこう楽しめた。たまには、こういう軽い読み物もいいものだ。