読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

中村融、山岸真編 「20世紀SF② 1950年代 初めの終り」

イメージ 1

 このアンソロジー・シリーズが河出文庫から刊行されて、もう10年以上が経つんだね。英米のSFを年代別に選りすぐって全6巻。本巻は第2巻で1950年代を代表する黄金の14編が収録されている。

 

 タイトルは以下のとおり。

 

 「初めの終わり」 レイ・ブラッドベリ

 

 

 「父さんもどき」 フィリップ・K・ディック

 

 「終わりの日」 リチャード・マシスン

 

 「なんでも箱」 ゼナ・ヘンダースン

 

 「隣人」 クリフォード・D・シマック

 

 「幻影の街」 フレデリック・ポール

 

 「真夜中の祭壇」 C・M・コーンブルース

 

 「証言」 エリック・フランク・ラッセ

 

 「消失トリック」 アルフレッド・ベスター

 

 「芸術作品」 ジェイムズ・ブリッシュ

 

 「燃える脳」 コードウェイナー・スミス

 

 「たとえ世界を失っても」 シオドア・スタージョン

 

 「サム・ホール」 ポール・アンダースン

 

 みてのとおり、SF世界では有名な作家ばかり。ぼく自身この中で知らなかったのはC・M・コーンブルースとエリック・フランク・ラッセルの二人だけだった。しかし、本書の中で一番おもしろかったのはそんな未見の作家ラッセルの手になる「証言」だった。これは前代未聞の異星人が被告の裁判を描いた作品。いまではさほど目新しくない切り口だが、この時代にこういう作品が書かれていたとは驚いた。不法侵入の罪で裁かれることになったこの異星人、聴覚もなく発声器官もないかわりにテレパシーによって相手の意志を理解し、筆談で応対するという。で、この裁判の行方は如何に?なのだが、これが法廷物としても結構読ませるのだ。ラストに軽いどんでんもあるし、結末も心に残るし、これは傑作です。

 

 他の作品については異星人が父親とすり替わったと確信する少年を描いた「父さんもどき」、タイトルそのままの終末の日を強烈な不安とともに描く「終わりの日」、不思議な箱に魅了される女の子と女教師の交流を温かい筆勢で描く「なんでも箱」、SFで同性愛を真正面から描いた「たとえ世界を失っても」などが印象に残った。

 

 なお、一番気に入ったラッセルの短編集「わたしは“無”」が創元文庫から復刊された。これは絶対読みたいと思っている。