読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

デイヴィッド・J・スカウ編「シルヴァー・スクリーム(上下)」

           イメージ 1イメージ 2

 

 これ本国で刊行されたのが1988年だって。いくらなんでも翻訳出るの遅すぎでしょ。ま、それはともかくそんな昔に編まれたアンソロジーにも関わらず、本書はかなり読み応えのある刺激的な作品揃いだからうれしくなってしまう。多くの作品の中から幾つかピックアップして感想を書こうと思うが、その前に本書のテーマを説明しておこう。本書は映画にまつわるホラーを集めて編まれている。ま、これ以上相性のいいテーマもないってくらい映画とホラーは切っても切れない縁があると思うのだが、上下巻あわせて19作、まあよくもこれだけ集めたものだと感心した。
 で、言及しておきたい作品なのだが上巻ではまずF・ポール・ウィルスン「カット」。ここで描かれる怪異はありがちな題材を扱っていながらも、その現象が特異で読ませる。これ、ほんとうにあったら怖いよね。ていうか最悪の悪夢だ。レイ・ガートン「罪深きは映画」は少年と連続殺人鬼の物語。そこにガートンは宗教による抑圧と屈折したイニシエーションを絡め、アンファンテリブル物として忘れがたい物語を紡いでゆく。スティーヴン・R・ボイエット「アンサー・ツリー」は既視感があってよくよく考えてみるとあのセオドア・ローザックの「フリッカー、あるいは映画の魔」とよく似た印象を受けるのだ。ドキュメントっぽいつくりの中で異様な映画監督の全貌が徐々にあきらかになってゆく。これは面白かった。

 

 ランズデールの「ミッドナイト・ホラー・ショウ」は先に文春文庫から刊行されていた「厭な物語」に「ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ」のタイトルで収録されていたので既読だったのだが、なんとも厭な話だね。前回読んだ時はフラナリー・オコナーの「善人はそういない」と読み比べてしまったのでさほど厭な印象は残らなかったのだが、こんなに後味の悪い話もそうそうお目にかかれないね。
 下巻ではマキャモンの「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」で幕を開ける。これも20年近くまえにマキャモンの短編集「ブルー・ワールド」で読んでいて、その印象ではなかなか痛快な変格のヒーロー物として残っていたのだが、今読んでみるとこれがけっこう正統派のサスペンスとして機能しているので驚いた。実をいうともっとブッ飛んだ内容だったように思っていたのだ。ドラマとしてもかなり秀逸だ。ミック・ギャリス「映画の子」は、業界の内幕が描かれていて興味深い。これを読めばアメリカのショー・ビジネス界のセオリーが学べます。エドワード・ブライアント「カッター」はまさかそんな結末がまっているとは!と驚いてしまう逸品。これは詳しく語りません。読んで戦慄してください。そして本アンソロジーの中でも目玉なんじゃないかと読了してから興奮したのがマーク・アーノルド「映魔の殿堂」。この作家どうも編者のデイヴィッド・J・スカウの別名義なんじゃないかといわれているのだが、これがあなた凄い作品なんですよ。おそろしく真面目で堅牢なつくりの作品だなあと感心しながら読みすすめているとラストで世界がひっくり返って大興奮の坩堝に叩きこまれること間違いなしの作品なのだ。
 
 てな感じでこのアンソロジー、なかなかのめっけものなのですよ。どうか興味をもたれた方は是非お読みください。