本書に収録されてる短編は先日読んだ大森望編「ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選」 と同じ時間SF物ばかりなのだが、副題が『ロマンティック時間SF傑作選』となっているようにタイムトラベル絡みのロマンスを描いている作品が多く収録されている。また、本書の『売り』として、収録作九編中三編が本邦初訳であり、残る六編のうち三編は三十年以上も前に雑誌に訳出されたきり埋もれていた作品で、あとの三編は二十年以上も入手困難だった作品だという三点が挙げられている。以上のことからも、本アンソロジーが非常に貴重な作品揃いのお買い得本だといえるだろう。
収録作は以下のとおり。
「チャリティのことづて」 ウィリアム・M・リー
「むかしをいまに」 デーモン・ナイト
「台詞指導」 ジャック・フィニイ
「かえりみれば」 ウィルマー・H・シラス
「時のいたみ」 バート・K・ファイラー
「時が新しかったころ」 ロバート・F・ヤング
「時の娘」 チャールズ・L・ハーネス
「出会いのとき巡りて」 C・L・ムーア
「インキーに詫びる」 R・M・グリーン・ジュニア
本作には二作だけ非常に技巧的な作品が収録されている。それは「むかしをいまに」と「インキーに詫びる」で、前者のほうはまだわかりやすく読んでいてそれほど混乱することはないのだが、後者のほうはすさまじいばかりの技巧作品で、一筋縄ではいかなかった。描かれていることはなんてことはない飼い犬の死と彼女との別れだけなのだ。だが、そこに至る経緯が尋常ではない。最後にはほわんと心が温かくなる作品なのだが、こんなに考えもって読んだのは久しぶりだった。
他の作品についてはすべてロマンティックSFの名に恥じないものばかりで、巻頭の「チャリティのことづて」と「時が新しかったころ」のラストにはほんとガツーンとやられてしまって、思わず涙ぐんでしまいそうになった。特にヤングの短編が素晴らしい。こんな傑作が埋もれていたなんて驚きだ。フィニイの「台詞指導」はこれといって目新しい作品でもないのだが、この人お得意のノスタルジーと映画が上手くつかわれている一編で、これも読んでて幸せな気分になった。「かえりみれば」は非常にストレートなタイムトラベル物で、あまりにも直球なのでそれほど印象に残らなかった。逆に「時のいたみ」はラストにきてハッと吐胸を衝かれる作品で、その後にくるエピローグの苦さも相まって、短いながらとても印象深かった。表題作の「時の娘」はタイムトラベル上のトリックを扱った作品なのだが、これの真相は早い段階で気がついてしまった。でも、あらためて考えると凄い話で、あまりのことにぐるぐる目を廻しそうになってしまう。「出会いのとき巡りて」は壮大なスケールの大きさに気が遠くなってしまう話。なんせこの話の主人公は人類創世の昔から時の終焉までを旅しながら一人の女性を追い求めるのである。かつてこんな話は読んだことはなかった。
というわけで、やはり時間SFは最高におもしろいのである。本書は買いだ。素晴らしいアンソロジーだった。