タイトルからもわかるとおり不穏な雰囲気をまとった作品ばかりのアンソロジーということだが、読了してみればさほどでもなかった。居心地の悪い作品といえば、やはり一番に思いつくのがディーノ・ブッツァーティであり、独断で言わせてもらえば彼の右に出るものはいないと思う。ブッツァーティの短編を読んでいると本当に落ち着かない気分になるし、その気持ちは後々まで尾を引く。だが、みなさんご存知のとおりブッツァーティはイタリアの作家。本書に収録されているのはすべて英米の作家なのである。
収録作は以下のとおり。
「ヘベはジャリを殺す」 ブライアン・エヴンソン
「チャメトラ」 ルイス・アルベルト・ウレア
「あざ」 アンナ・カヴァン
「来訪者」 ジュディ・バドニッツ
「どう眠った?」 ポール・グレノン
「父、まばたきもせず」 ブライアン・エヴンソン
「分身」 リッキー・デュコーネイ
「潜水夫」 ルイス・ロビンソン
「やあ!やってるかい!」 ジョイス・キャロル・オーツ
「ささやき」 レイ・ヴクサヴィッチ
「ケーキ」 ステイシー・レヴィーン
「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」 ケン・カルファス
知っている作家はカヴァン、バドニッツ、オーツの三人だけ。まだまだ不勉強だなぁ、知らない作家がこんなにいるなんて。で、この中で本当に居心地の悪い気分になったのが「来訪者」、「潜水夫」、「ささやき」の三作。「来訪者」は遠く離れて暮らしている娘のところへ向かう両親の話。しかし、待てど暮らせど両親はやってこない。電話が掛かってきて今どこにいるとか、どんな状況だとか報告してくるのだが、それがどんどん不安要素をはらんでくるのである。読者は娘と一緒になってハラハラしてしまう。何がどうなっているのかよくわからないから余計に不安になってしまう。
「潜水夫」は、妻と一緒に船で沖に出ていた男がスクリューに綱を絡めて立ち往生し、一人のダイバーに助けを求めたところから話がはじまる。このダイバーがクセ者で、妙に馴れ馴れしく一筋縄ではいかない人物。難なく絡まった綱をとってくれたのはいいのだが、なかなか立ち去らない。魅力的な妻と自分の身に不安を感じた男は少々思い切った行動に出るのだが、それが裏目に出て・・・・というお話。これ、読んでて映画の「ケープ・フィアー」を思い出してしまった。シチュエーションが似てるんだよね。
「ささやき」は、本書の中で唯一ホラーテイストが感じられる作品。これは途中の展開もゾワゾワと怖いが、ラスト一行がとても怖かった。ホラー映画の定番的な怖さなのだが、それを小説でこんな真正面からやられたことがなかったので驚いた。この人は他の作品も読んでみたいね。
隠された真実に不安を残す一編だ。
というわけで、本書の半数以上がさほどでもない感触だったが、ここに収録されている作品は至極読みやすいので翻訳物が苦手な方にもオススメなのである。ちょっと変わった話が好きな方は是非読んでいただきたい。